辺境遊戯・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2003
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デルファの指輪4

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 ファルケンが剣に手をかけたのを見て、なだれ込んできた盗賊たちは、一斉に身を引いた。
「やるつもりか!てめえ!」
「あんた達が、大人しくしてくれるなら、オレはやらないよ。」
 ファルケンは、まだ柄に手をかけたまま、剣を抜いていない。
 後ろの方では、レックハルドが早速逃げ支度をしていた。右手が、コートの中にくれているのは帯に挟んだ短剣を握っているからだ。どうしたものかと、フェイがおろおろとしていているのをみて、レックハルドは、あいている左手でフェイのマントを引っ張った。後ろに引っ張られ、思わずこけそうになりながら、フェイは、そっとレックハルドを見上げる。
「お前も逃げ支度しとけよ!」
「に、にげじたくですか?」
 小声でささやいてきたレックハルドに小声で返し、フェイは周りを見回した。入り口には、一杯の盗賊たち。出口になりそうなものは…いくつかの窓だけである。と、いうことは……
「こ、ここ、…確か、三階でしたよ!」
 フェイは血相を変えて、レックハルドに言った。
「…当たり前だろ?壁のぼってきたのを忘れたのか?」
 当然の事だといいたげな、レックハルドの涼しげな返答に、フェイは怯えたような顔をする。
「お、降りる方が難しいんですよ…」
「大丈夫だって。ああ、もううるせえな。黙ってろ。」
 レックハルドは意に介さずという風に、左手を振ってフェイを黙らせた。
(そんな事言われましても…)
 不安な事には変わらない。フェイは困った末、とりあえずレックハルドを信用する事にして、自分は黙っている事にした。
 前ではファルケンが相手を牽制している。
「で、どうする?」
 盗賊たちは、少し顔を見合わせた。確かに相手は強そうな大男なのだが、よく考えれば後の二人はさほどの脅威ではない。痩せた長身の青年と、それから、やたらとおろおろしている小さな少年の二人組みだ。戦いようによっては勝てる。
 そう判断すると、元がならずものの盗賊たちの決断は早かった。
「やっちまえ!」
 だっとそのまま、三方向に分かれて飛びかかる。
「仕方ないなあ。」
 ファルケンは、ため息混じりに呟くと、肩の柄に力を込め、長身の彼にしても些か長めの剣を抜いた。
「馬鹿が!屋内でそんなでっかい剣を振り回して勝てるもんか!!」
 馬鹿にしたような口調で、盗賊の一人が言った。ファルケンは飛びかかってくる連中を一瞥しながら応える。少し首をかしげるようなしぐさをしながら、にっこりと微笑んだ。
「あぁ、振り回したら勝てないな。」
「何。」
 ファルケンは、その剣を床につきたて、宝玉のあしらわれたその柄に両手を置いた。
「振り回す以外にも、コレには使い道があるんだよなっ。」
 そういうと、ファルケンは、少しだけ鋭い目を彼らに向ける。いきなり、床に見えない波動のようなものが走り、盗賊たちは動揺する。
「な、…なんだ!」
 直後、その倍もの凄まじい圧力が彼らを襲った。レックハルドやフェイに襲い掛かろうとしていたものも含めて、その圧力は、彼らを壁の方に吹っ飛ばす。壁に叩きつけられ、何人かが気絶したようだった。予想以上の結果にファルケンは、髪の毛に手をやりながら首を振る。
「一応、手加減したんだけどな。」
「畜生!化け物め!」
 残りの手下が向かってくるのを見て、ファルケンは今度は剣をそこに刺したまま、だっと走り出した。あとは、剣を使わずに、直接攻撃で敵を撃退するつもりらしい。
 盗賊はファルケンが相手をしてくれているので、今のうちにとばかり、レックハルドはロープをひょいと自分の荷物入れの中から取り出すと、近くの柱に縛り付け始めた。
「何するんです?ファルケンさんが!」
 フェイは、ファルケンが心配でおろおろと声をかけるが、レックハルドはそれどころではないらしかった。
「アイツなら大丈夫だ。それよりも、ちょっと手伝え!」
「はい。」
 レックハルドは、柱に片足をかけて、一生懸命ロープを結び付けていた。フェイはレックハルドの後ろにたち、ロープを同じように引っ張る。
「ど、どうするんですか!これ?」
「なるべく、きつく結んでおかないと、あとで…命に関わるぜっ!」
 一通り結び終えたらしく、レックハルドは力を緩めた。
「さて、これから、後は逃げるだけ…!?」
 最後まで言葉を続けられなかったのはいきなり、ファルケンのガードをすり抜けた盗賊が、こちらにむかってきたからである。手元に短剣がちらついていた。
「ファルッケン!手え抜きやがったな!」
「いや、こちらも手一杯だったから!」
 ファルケンが、盗賊を投げ飛ばしながらのんきに応えた。
「頼りにならねえ!」
 レックハルドは用心棒に対する不満を憤然と述べるが、ここは自分で何とかしなければならなさそうなので、ひとまず文句を言うのはやめておいた。
 飛びかかってきた盗賊の攻撃をかわし、レックハルドは素早く足払いをかけた。足元をすくわれ、その男は床に転げた。
「さあ!今のうちに逃げるぞ!チビ!」
「ええ!」
 いきなりのことに、フェイはまた困惑の色を見せる。レックハルドは、先程柱に必死で結んでいたロープの端っこをもつと、フェイの胴体に巻きつけた。
「な、なにをなさるんですか?」
「命綱。…お前、自力で降りらんないだろ。」
「え、それって…」
「それじゃあ、いってらっしゃい!」
 レックハルドは、窓際までつれていったフェイをいきなり、どんと突き飛ばす。フェイの悲鳴が響く中、レックハルドは自分も一緒にロープを握って窓から飛び出した。
「ファルケン!そんくらいにしとけ!」
 窓から飛び出しながら、レックハルドは後方に呼ばわった。
「おう!」
 適当なところで切り上げて、ファルケンは窓の方に走る。背後を狙って盗賊たちが、群がろうとするが、ファルケンは振り向きざまに、素早く何事か呟いた。
 床に一瞬、何か円形の模様が浮かび上がり、突然ファルケンの前で炎柱が立ち上った。盗賊たちは、それに驚き、慌てふためいて後退する。炎はやがて消え去ったが、そのときにはファルケンの姿は、すでに窓の外であった。

「レ、レ、レックハルドさん!!」
 フェイが、恐怖のあまり怯えた声で叫ぶ。どう考えても落下している、怯えても無理はない。ところが、レックハルドは冷静そのものだった。
「お前は!何の為にロープを引っ掛けてきたか考えてねえな!?」
 レックハルドは、フェイの体に巻きつけておいたロープの上の方に自分の手を二度巻いていた。いきなり、がくん!と衝撃が加わり、落下が止まる。と思ったら、今度は急に左右に振られる。
「わああ!」
「わああ!じゃない!落ち着け!この馬鹿!」
 壁が近づいてくる。フェイは思わず目を閉じたが、思ったほどの衝撃はなかった。レックハルドが仕方なく、フェイの体をわきに抱え気味に、壁に着地していた。
「あ、ありがとうございます。」
「ほら!後は一人で降りろ!」
 レックハルドは、冷たくフェイを放すと、自分はロープを放して、上手く壁の下まで降りていく。さすがに元々、泥棒だっただけあって、その手並みは鮮やかだった。
地面では、先に到着したらしいファルケンが待ち構えていて、フェイとレックハルドの帰還を待ちわびていた。
「待ちやがれ!!!」
 どこか遠くのほうから盗賊たちの声が聞こえる。
「あいつら、意外としつこいな〜。」
 ファルケンは、うんざりしたように言う。レックハルドは同感といった風に、うなずいた。後ろの館の扉は、もう半分ほど開いている。
「全くだぜ。さて、ここから走って逃げるぞ!」
「は、はいっ!」
 フェイは大きくうなずいた。

 その場を何とか逃げおおせ、レックハルドたちは、最初、彼らが出会った街中にきていた。
「本当に、ありがとうございます。レックハルドさん。ファルケンさん…お陰で…あれ?」
 フェイは礼をいいながら、不意にさっと顔を青ざめさせた。そういえば、指輪はどうしたのだろう。自分は持ってこなかったような…。
「レックハルドさん!指輪どこでしたっけ!!」
 泣きそうな顔をしてフェイがいったが、レックハルドは知らん顔である。
「さぁ、落としたんじゃないの?」
 冷たくいうが、レックハルドは確かに指輪を自分のコートの隠しポケットの中に突っ込んでいたのである。どうやら、このまま知らぬ顔を通して、指輪をくすねるつもりらしい。ファルケンがそれに気づいて、レックの肩をたたいた。
「レック。」
 ファルケンが、あきれたような顔でレックハルドを軽く睨む。
「オ、オレは、知らねえっていってるだろ!」
 さすがにファルケンに言われると良心の呵責でも感じるのか、ファルケンにレックハルドは食って掛かるようにいったが、ファルケンの表情は変わらない。しばらく、それとにらみ合った後、レックハルドは、心底惜しそうな顔をしたが、仕方ないとばかりに懐に押し込んであった指輪をフェイのほうに投げた。
「わかったよ!ほら!もって帰れ!クソガキ!」
 ファルケンを怒らせると後が恐い。直接怒らせた事はないのだが、それでも十分に恐かった事をレックハルドは覚えている。そのときにレックハルドは、ファルケンだけは怒らせまいと誓ったのだった。自分の身の安全のためにも。
 ファルケンがそのタイミングを心得ていたかのように、にっと笑ったので、レックハルドはむっとしてファルケンを睨み返した。フェイはその間に、指輪を拾い上げて、純粋な笑顔を向けた。
「ありがとうございます!レックハルドさんっ!」
「ちっ。礼ならファルケンに言えよ。」
 レックハルドは、ふいっと顔を背けた。フェイは、ファルケンのほうを向いて、ありがとうございますと丁寧なお辞儀をしている。
「いや、オレよりもレックのほうが…。」
「チェッ。邪魔ばっかりしやがって、今更持ち上げられても嬉しくもなんともないぞ。」
 フェイが困った顔をするので、ファルケンは笑いながら言った。
「レックは、本気で言ってるわけじゃないから、気にするなよ。」
「何吹き込んでんだ!てめえは!」
 余計な事をいうので、レックハルドはきっとファルケンを睨む。
「いや、別に。」
「…全く、侮れねえ奴だよ!お前は!」
 フェイは、安心したようにうなずいて、またぺこりとお辞儀をした。
「ありがとうございます。レックハルドさん、ファルケンさん。本当にたすかりました。僕、一反、ここでお別れします。また、あとでお礼をもってあがりますので。」
「あとで?」
 レックハルドは、礼はあとでという言葉に引っかかりを覚えたらしいが、別にそんなに期待もしていなかったのか、急にどうでもよさそうにいった。
「まぁ、家出坊ちゃんのする事はしゃあねえしな〜。期待しねえで待ってやるから、その内、届けにきな。」
「はい!すぐにお届けにあがります。」
 また丁寧にお辞儀をして、フェイは、マントをひらひら翻して、何となく不安をさそうようなぽてぽてした走りで、向こうに歩いていった。
「なんか、こけそうだな、あいつ。」
 レックハルドは、ため息をつく。
「レック、珍しいな。お礼はどうでもいいなんて。」
「…オレはあの指輪一個もらえりゃどうでもよかったんだけどな。」
 レックハルドは憤然と言う。ファルケンはにやりとした。
「あぁ、そうか。…さっきの盗賊のとこで、なんか、くすねたんだな?」
「うっ。…ちっ。いいところを突くな。」
 レックハルドは、苦笑いをする。事実、彼のコートの裏のポケットには先程くすねた金貨や、金細工の髪飾りなどが潜まされていた。いつの間に盗ったのものか、それはファルケンも知らない。レックハルドのその早業は、ファルケンでも時々わからないことがあるほどである。
「それで、機嫌が悪くないんだな。」
「一言多いんだよ、お前は。」
 レックハルドは、帳面でパンとファルケンの頭をはたいた。
 しばらく、そのまま、東に向かって歩く。夕暮れの港町は、宿や家に帰る人が、ぽつぽつと歩いているだけで、実に静かなものだった。折角なので、海沿いの道を歩きながら、二人は海の夕暮れというものも、彼らなりに楽しむ事にしていたのである。
「お待ちください!」
 急に背後から声がかかった。振り返ると、複数の馬蹄の音とともに、男の声が追ってくる。
「お待ちください!レックハルド様!」
「何だ?」
 ファルケンが怪訝そうな顔をする。レックハルドは、とりあえず立ち止まり、男の到来を待った。男は、何人かの騎馬の護衛をつれていて、随分と綺麗な服を着ている。
「あなた様がレックハルドさまですね?」
 男は少し息を切らしながら、尋ねてきた。相手があまりにも身分の高そうな身なりなので、レックハルドは少し驚く。ディルハート様式の貴族以上の服装だった。
「あ、そ、そうですが…」
「ああ、よかった。陛下が是非あなた様にこれをと!」
 男は、安堵したようにいうと、袋に入ったものをレックハルドの手を渡した。ずっしりと重い袋を渡され、レックハルドは危うくバランスを失いかけた。
「あ、あの、…」
 わけがわからないレックハルドは、男の顔と袋とを交互に見た。
「ええ。本当に、デルファの指輪が追いはぎに盗られたことを、我々が陛下に告げなかったのが悪いのです。あの方は純粋な方なので、自分が居眠りの間に落としてしまったのだと勘違いして、責任を感じて一人いなくなってしまわれたんですよ。あなた方が助けてくださらなかったら、陛下も指輪もどうなっていたやら…まことに、ありがとうございました。感謝してもしつくせません。」
 男はそういって、それから付け加えた。
「あの指輪、デルファの指輪は…本来、ディルハート王家の王位継承の証なのでございます。今回は、カルヴァネスに重大な公務がございまして、それをつけてカルヴァネス王の前で会合しなければならなかったので持ち歩いていたのですが、まさか追いはぎに遭うとは…」
(…な、なんだかしらないが、王家のくせに追いはぎに遭うって…なんてのんきな国だ。)
 まあ、それもそのはずだな。とレックハルドは考え直す。カルヴァネスもディルハートも、戦争らしい戦争をここのところ、全く経験していないのだから。
 そこまで考えてハッとする。もしかして、陛下というのは…あの…。
「フェ、フェイ…じゃなかったフェザリアさまというあのお子様は…も、もしや…」
 レックハルドの驚きをよそに、男は当然のように言った。
「ええ、我がディルハートの王であらせられます、フェザリア=リネイ=ディルハートさまです。」
「…ふぇ、ふぇざりあ陛下…?」
「そうです。それで、こちらはフェザリア陛下から、あなた様にお礼の品でございます。本当は、ご自分で渡したいとおっしゃられていたのですが、時間が押していまして…。非礼をわびたいとの、お言葉でございました。」
「…い、いえ。ご丁寧にどうも…」
 レックハルドが頭を下げるので、ついでにファルケンも一緒に頭を下げてみる。
「陛下は、あなた様方にこうも伝えてくれとおっしゃいました。『どうか、わが国に立ち寄られた際には、ぜひとも王城を訪れてくださいますように。』と。我々からも、感謝を申し上げます。」
 国王の部下からぺこぺこされて、レックハルドは却って気持ちがよくなかった。いつもは、爽快な気分になるのだが、今回はあまりにも身分が高すぎるのである。
「ああ、いえ、その、…わ、私たちは別に、当然の事をしたまでといいますか、その。」
「いいえ。どうぞ、立ち寄られた際には、城にいらしてくださいませ。」
 高貴な身分らしい中年の男は、そういうと一礼し丁寧に別れの挨拶と非礼をわびて帰っていく。ぼんやりとそれを見送っていたレックハルドは、彼が行ってしまってから、手にある袋の重さに気づいてドキリとした。
「…金だ!」
「あ、金貨だ。」
 ファルケンが、レックハルドが開いた袋の中身をのぞきこんでいった。
「…思ったよりもたくさんだったな…」
 ファルケンが、感慨深そうな声で言う。
「確かに相応の礼っちゃあ礼だな。」
 あの指輪は、普通に売っても随分だったが、王家の意地がかかっているとすると、余計に大事なものだったはずである。
「ありがたくもらっとくか…。にしても、急すぎて何か金が儲かったって言う実感がないぜ。」
 レックハルドは去っていく騎馬の群れを見ながら、ふうとため息をついた。まさか、あのボケボケした子供がディルハートの王様だったとは…。世の中何があるかわかったものではない。とおもう。
「あいつ…ディルハートの国王だったのか…。そういや、あそこの国は、ガキの王様が立ってるって噂が…」
「だから、世間知らずだったんだな。」
 ファルケンは納得したのか、しきりにうなずいていた。不意にレックハルドはある事に気づいて、頭をかかえた。
「しまった〜。」
「どうした?」
「やばいな〜。オレ、あいつの頭何発もどついちまったよ!」
「フェイは、レックを恨んだりしてないと思うぜ。」
「まぁ、あの坊ちゃんに人を恨むほどの度量はないだろうけどさぁ。」
 その事を周りにあの坊ちゃんが話したとしたら、彼も無事ではすまないかもしれないのである。何しろ、王様の頭を幾度と知れず殴ったし、おまけに後一歩で足蹴にしかけたし、マントは引っ張ったし、どれだけ乱暴な扱いをしたかしれないのである。
 ただ、とりあえず今のところは大丈夫そうだ。街への道を戻りながら、レックハルドはその危険性についてはしばらく、考えない事にするのだった。
「…しっかし、世の中何があるかわかんねえな。」
 今度は口に出して、レックハルドは深くため息をついた。
「だなぁ。でも、いい経験をしたのかもなあ。宿屋も知らないかったんだし。」
 ファルケンが同意して、感慨深げにうなずいている。
「そうだな、まあ、あの坊ちゃんにも、世間のキビシサってのがわかっただろうな。いい王様ってのは、世間知らずじゃいけないし、オレもいい事したよなぁ。」
 色々、道義的には問題のある行動ばかりしていたくせに、レックハルドはぬけぬけとそういう。ファルケンは、苦笑したが、同時にやたらとニヤニヤしている。
「…レックの場合ちょっと違うと思うけど。」
 ファルケンがニヤついているのでレックハルドは軽く彼を睨んだ。
「どういう意味だよ。」
「レックと一緒にいるとだな、世間のキビシサより先に、悪事の働き方を覚えるから…なぁ…。」
 少しにやりとしながら、ファルケンはからかい半分にそんなことをいう。生意気なファルケンの態度に、レックハルドは、更にむっとした。近頃、油断するとファルケンは不意にこういう風に応酬してくる事がある。
「なんだ、お前が徐々に生意気になったのは、オレのせいだってーのか?」
「い、いや、決してそんなつもりでは…」
 そう切り返されると予想していなかったファルケンは逃げ腰になりながら、弁解を始める。
「そういや、言葉遣いも変わったよな〜、お前。オレの悪影響だって言いたいのか!?お前は!」
「いやいや、それはその…、ほら、オレも成長とか学習とかするからってレックが昔…」
「うるさいな!結局オレかよ!」
 レックハルドが、いきなり、足元の石を蹴ったので慌ててファルケンは逃げ出した。レックハルドが蹴った石ころは、ファルケンをわずかにそれて、海の中にぼちゃんと落ちる。
「悪かったよ!オレがちょっと生意気な事いいすぎました!!」
「今更謝ったって遅いんだよ!」
 逃げるファルケンを追いながら、レックハルドは、そのままレファンの街中に入っていった。
 今日はもう夕方になっている。宿代をケチりたいレックハルドには残念だが、今日はレファンの宿で一泊ということになりそうであった。

 
 馬車に揺られながら、フェイはこっそりと指輪を取り出した。
 それを手にしたものに、ディルハートの全てを手にする権利があるといわれる王家の指輪…デルファの指輪は、彼の指先でキラキラと純粋な光を放っている。
「レックハルドさんもファルケンさんもとてもいい人たちだったなあ。」
 にこにこしているフェイを、そっと外から側近がのぞいた。
「おや、陛下、随分とご機嫌のようですな。でも、お一人で抜け出すような真似は、もうおやめください。我々は生きた心地がしませんでしたぞ。」
 最後はたしなめるような口調で彼は言う。フェイは、気まずそうな顔をして、少し頭を下げた。
「はい。…心配かけて申し訳ありませんでした。でも、僕がアレを探しに行かなきゃとおもいまして…。でも、本当にとてもいい方たちが助けてくださったんです。世界は、皆さんが言うよりもずっといい人が多いんですね。」
「あはは、陛下には参りますなあ。」
 人の良さそうな側近が、ニコニコしていた。レックハルドの期待を裏切って、全く世間のキビシサに気づきもしていない小さな国王は、またレックハルドとファルケンに会えたらいいのになあ。とのんきに考えながら、自分の国への道を辿るのであった。

終わり

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©akihiko wataragi






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