ならず者航海記・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2003
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 四章:嵐の夜

第11話:羅針盤-2
   

ファリアエイル号のほとんどフォーダートの物置と化した船長室は、あちこち傷みが激しい。彼ですら普段はそこで眠らないほどだし、一箇所確実に床が抜けている場所がある。
 だが、一応船長室らしい体裁だけはとっていて、大きなデスクとソファーぐらいは備えてあった。本棚には、適当に本が積み重ねられている。あれこれ散らかしてはいるが、人が入れないほどではなかった。
 フォーダートはデスクの向こうの回転椅子に、深く腰掛けて足をデスクにかけていた。左腕に三角巾を巻いて首からつるしているのは少し痛々しげだが、彼の部下はそれを気の毒がるというよりは、興味深深に見ているといった感じだった。解熱剤と鎮痛剤のせいか、それとも彼の生命力が強いためか、彼は中途半端に痛そうなだけで、案外元気そうに見える。そのせいで、あまり気を使われないのが、彼の不運だとも言える。
「さすがはおかしらですね。」
 ティースが、あまり実感のないお世辞を言った。
「そんな大怪我して平気なんてさすがですよ。話をきいて奇跡がここにって、思いましたよ。」
「お前、オレの事尊敬してねえだろ。オレだってそこそこ死にかけてたんだ!」
 フォーダートは、軽くティースを睨んだまま、船長室の机に足を投げ出していた。そのまま使える右手で机の引き出しをあけて、何か探しているようだった。
 ちょうど温かいスープを持ってきていたディオールが、フォーダートの作業に首をかしげた。
「何やってるんですか?」
「いや、鍵がないんだが…」
「鍵?」
 フォーダートは少し困った顔をした。
「ここに入れてあったんだが、お前らしらねえか?」
「いえ、知りませんけど。」
 ティースが答え、ディオールに目をやった。整理整頓はディオールの役目なので、隠すとしたらディオールしかない、と言いたげである。ディオールは慌てて首を左右に振った。
「ち、違いますよ! 僕じゃありませんって!」
「て、ことです。おかしら、自分でなくしたんじゃないんですか?」
 ティースが冷たい口ぶりで言った。フォーダートはやや青ざめて、右手を顎に置いた。
「…まずい。…まずすぎる。」
「どうしたんですか? 何の鍵ですか? 日記帳じゃないでしょうね。」
 まだ事の重大さを理解する気もないらしいティースの言葉である。フォーダートは、理解のない手下をもったことを少しだけのろいながらため息をついた。また作業を続ける。
 と、不意に右手に、何か金属の感触があった。フォーダートは急に目を輝かせ、それをつかんだ。
「あった! これ…」
 思わず大声で叫んだのが傷に触ったのか、フォーダートは固まって、顔を少し青くした。
「おかしら、無理しなくてもいいのに。」
「う、うるさい。お前にいわれなくてもわかってるっ!」
 冷めたティースにそっと言い返す。鍵を指先にかけ、フォーダートは椅子の背もたれにもたれかかった。
「全く、あいつらに関わってからいい事ひっとつもねえなあ。」
「あ、おかしら。お客さんですよ。」
 いつの間にか外に出ていたらしいディオールが、何となく恐る恐る帰ってきた。
「客? なんだ、案外早かったな。」
 フォーダートは、少し唸った。宿屋に泊まっているかもしれないから探してきてくれとは頼んだが、ゼルフィスの事だ。早朝からいなかったようだし、宿の一軒一軒を無作法にききまわったのかもしれない。その状況を思い浮かべると、何となくフォーダートは頭が痛くなった。
「アルザス君と女の子が一人なんですが、なんだかすごい綺麗だけど、すごい人がいっしょですよ。なんだか、暴れそうな人ですけど。」
「ああ、すごくてやばい奴のはわかってるから、通してやってくれ。」
 ゼルフィスに対して、妙に複雑な思いを抱えながら、フォーダートはため息混じりにつぶやいた。



 ちょっと不思議なゼルフィスにつれられてファリアエイルまできたものの、アルザスもライーザも少し不安だった。ゼルフィスが味方だという保証はないのだし、第一にフォーダートが本当に無事かどうかも不安だった。ディオールがなかなか取り次いでくれないのは、もしかして相当悪くて会わせられないのではないだろうか、とも思ってしまう。
「あいつ、ほんとに大丈夫なのか?」
 アルザスがきくと、ゼルフィスは少し首をかしげた。
「さぁ、行きがけに会ったときは、死にそうな顔しながらオレの事睨んでたな。だから大丈夫なんじゃねえか? あはは、景気悪いだけで死にゃしねえって!」
 わけのわからない事を言いながら、ゼルフィスはげたげたと笑った。全く安心のできない返答に、アルザスもライーザも、頭を少し悩ませる。
「お待ちしてますって、おかしらが。どうぞお入りください。」
 ディオールがひょこっと顔をのぞかせた。
「おう、じゃ、行くぜ。」
 そう軽く答え、繊細な外見にあわず、大またにゼルフィスは中に入っていく。中身と外見のギャップがこれほど激しい人は初めてだ。ライーザとアルザスは顔を見合わせた。
「い、行くか?」
「…行くしかないわよね。」
 そう答えて、彼らはファリアエイル号に乗り込んだ。ちょうど船長室のほうにディオールが案内する。途中で、おもしろそうにそれを見ているティースとすれ違った。
 扉はすでに開いていた。中からゆっくりと人影が現れる。
「おい、連れてきたぜ。このガキどもでいいんだよなあ?」
 ゼルフィスが大声でそう聞いた。暗い中から人影が何か答えようとする。その時の光の加減で彼の顔がはっきりと見えた。
 はっと、ライーザのほうが息を呑む。
 海のようなコバルトブルーの瞳に、整った目鼻立ち。それにひときわ大きく見えるのは右側のすさまじい刀傷である。
 彼は、どことなくぼんやりした様子で現れてそのままゼルフィスに返答しようとした。
「ああ、それで合って……わっと!」
 フォーダートは慌てたのは、いきなり目の前にいた少女が彼に飛びついてきたからだった。危うく倒れそうになったが、何とかバランスを保つ。
 アルザスもゼルフィスもややあっけにとられる中、ライーザは軽く肩を震わせていた。泣いている様子に、更にフォーダートは焦る。
「お、おい、お嬢さん…」
「ごめんなさい。あたし……」
 軽く顔を上げた。涙で濡れた青い瞳がフォーダートを見ていた。彼女としても、ずっと気がかりだったのだろう。必死で気丈に振舞っていても、自分のせいで人が死んだかもしれないと聞かされて、彼女ぐらいの年頃の娘が、平気でいられるはずもなかった。
「あなたが死んだかと思ったの。ごめんなさい。あたしがあの時…」
「い、いや、そんなこと…。別に…オレは…その…。」
 どうしたものかとフォーダートは、目を泳がせた。アルザスは呆然としているし、手下二人は助け舟を出してくれそうにない。ゼルフィスは論外である。こうした時にどうつくろえばいいのか、案外不器用なフォーダートはわからないのだった。
 まさか、いたいけな少女の肩を抱くわけにもいかず、手を空中にさまよわせた結果、フォーダートはそっと彼女の頭に手をおいた。
「い、いや、その…。大した事じゃないからさ。…いいんだよ、オレは平気だし。こんな傷すぐに治るんだからよ。」
 顔をやや赤面させながら、どうしたものかと困る。女の子のなぐさめ方はよくわからない。
「オレが馬鹿やって失敗しただけだから、…お嬢さんのせいじゃないよ。」
 不器用にそういってフォーダートは少しだけ微笑んだ。ライーザが顔を上げる。涙で濡れた人形のような顔立ちに、大きな青い目がぱちりと瞬いた。こうすると、まだまだあどけない子供だ。フォーダートは息をついた。
「あのスカーフはすまねえな。ホント、見る影もなく血だらけになっちまって…漂白しても元に戻せそうにないし、後で新しいの買うから。」
「あんなのはいいの…ただ、あたし、フォーダートさんが…」
「いいって。オレはこの通り、無事なんだし。そもそも、こんな傷なんてどうってことなかったんだから。」
 あそこでは、一応危機を脱したのだから、そうこの傷も大した事はなかった。それを大したものにしてくれたのは、目の前で楽しそうにそれを眺めているゼルフィスだ。今回本気で死ぬかもしれないと思ったのは、ゼルフィスがいきなり乱入してきて勝負を挑んできたからである。それなのに、何を楽しそうに笑っているのか、ゼルフィスの神経が知れない。
 そう思いをはせていると、いきなり近くで当のゼルフィスの声が聞こえた。思わずフォーダートは不意をつかれた。ゼルフィスはいつのまにか、真後ろにいたのである。
「へえ、隅におけねえじゃねえかい。逆十字!」
 そして、ぱーんと容赦なくからかい半分にゼルフィスがフォーダートの肩を叩いた。しかも、撃たれた左肩を――。
 フォーダートは息を呑み、思わず固まった。激痛が頭の芯まで走りぬけ、ようやく去ってから、振り返り様に彼は叫んだ。 
「…け、怪我人になにするんだ!」
 悲鳴半分の逆十字を見て、ゼルフィスは悪い悪いと軽く返す。
「いやあ、忘れてたんだよ。あんたあんまり痛そうじゃないし!」
「十分すぎるほど痛いわ! 傷が開いたらどうする気だ! それでなくても、貧血気味なんだぞ、オレは!」
「あはは、だったらその子に介抱してもらえばいいじゃねえか。役得だぜ!」
(何が役得だ! これ以上、怪我したらいくらオレでも死ぬっつの!)
いい加減、言い返す気力もなくなってきた。フォーダートは、唸りながらゼルフィスを恨めしそうに見ていた。
 ゼルフィスは、あっと何かに気づいて扉の外に向かって歩き出す。
「なんか、オレがいると悪いよな。内輪の話もあんだろ? 一応敵のオレには聞かせたくないだろうし、…ちょっと外に出ててやるよ。」
 ゼルフィスがそういったので、フォーダートはそちらに目を向けた。
「あ、ああ。悪いな。…後でお前とはきっちり話をつける。」
 きっちり、に妙にアクセントを置きながらフォーダートはやや忌々しげに言い放つ。だが、そんな事もゼルフィスは気づいていないようだった。
「はいはい。じゃ、後でな。」
 そういい、ゼルフィスはとっとと部屋から出て行った。
 騒がしいゼルフィスがいなくなり、ようやく落ち着いたフォーダートはため息をついた。そして、ライーザの肩に手をおいて、慰めるように微笑む。
「ま、まあ、そういうことで、オレはなんとか大丈夫だから、落ち着けよ。お嬢さん。」
 こくりとライーザは頷いて、涙をぬぐった。そして彼に向かって微笑みかけた。
「あの時、助けてくれて本当にありがとう。それを言いたかったの。あなたが生きててくれて、よかった。」
「へへへ、そりゃどうも…」
 フォーダートは、少し照れながら笑い返した。ひとまずは、これでライーザも落ち着くことだろう。
「じゃあ、中にどうぞ。残念な事にきれいにはしてないがな。」
フォーダートはそういい、船長室の中に彼らを案内する。余計な本やら骨董品やらが散らばっている船長室の椅子に彼は腰掛けて、二人を見上げた。
「しっかし、丈夫だな、あんた。」
 ようやく発言権を得られたアルザスが、感心半分、あきれ半分に言った。幽霊ではなさそうだし、一応無事らしい彼の姿を見て、何となく尊敬の念が沸き起こったが、なんてしぶといんだろうというあきれも半分入ってしまったのである。
「よく無事だったな。どうやって逃げたんだよ。」
「あれから船から隙を見て飛び降りて、嵐のせいで流されたらしいボートを拾ったんだよ。まあ、悪運が強いのだけがオレのとりえだからな。」
 などと、アレクサンドラに言われた事が響いているのか、いささか自嘲気味にフォーダートは話してから、ふと椅子にもたれかかった。
「まあ、オレの事はいいやな。それより、オレはお前らに聞きたい事があって呼びつけたんだが…」
 アルザスとライーザは顔を軽く見合わせた。一体、何を聞くというのだろうか。
「これからどうするんだ? お前達。」
 フォーダートが少しぶっきらぼうに訊いてきた。
「多分、あいつらはもう追ってこねえよ。でも、地図はなくなっちまったし、お前らの目的はもうないよな? ヴェーネンスに帰るのか?」 
 アルザスはライーザと顔を見合わせる。そして、頭に少し手をやった。
「どうするって…そうだなあ。」
 アルザスはライーザのほうを少し見上げた。
「一回でてきちまったし、帰るのも癪だし…」
「しばらくは他のなんかないか調べてみる事にしようかなって思ってるの。とりあえず、ネダー博士にも聞いてみたりして…。」
 アルザスを補足する形で、ライーザは言った。
「もっとも、地図があれば、まだ追いかけてたかもなあ。あんたの手から奪い返すとか。」
 アルザスが冗談まじりにそういい、はははっと笑った。フォーダートはそれを膝に手をおきながらきいていたが、やがて頭を使える右手でかきはじめた。
「ちぇっ、ホント、お前らには負けたよ。」
 フォーダートは深くため息をついて、鍵をちゃっと取り出した。
「あんな目にあったのに、懲りない連中もいるんだな。ったく、若いのはいいよな。」
 それを一番上の引き出しに差し込み回す。かちゃり、と音が鳴り、呆然と彼の動作を見守っていた二人の前で、フォーダートは引き出しを開けた。
「お前らも意外と馬鹿正直だよなあ。」
 フォーダートは少し挑戦的にいった。
「な、なんだよ、それ。」
 さすがに少しムッとしてアルザスが言ったが、フォーダートはそのまま引き出しの中に手を入れた。
「ホントにあの地図が燃えるとでも思ってたのか?」
「えっ!」
 アルザスとライーザは驚いて声をあげた。その驚愕の顔を、ややおもしろそうに見た後、フォーダートは引き出しから袋を二つ取り出した。そのうちの平べったいほうから紙切れを取り出す。何も書かれていないふるい紙が机の上に広がった。
「これ! もしかして!」
 それを手にとって、何となく得意げな顔のフォーダート見る。彼はにんまりと笑って、頬杖をついた。
「なぜ地図が長い間残っていたと思ってるんだ? 絶対に残る材でつくられてたからに決まってるじゃねえか。おまけに破れないし、水でもふやけねえ。もちろん、火もつかねえぜ。全部オレが実験済みだ。」
 ディオールが持ってきたらしい近くにおいてある飲み物を一口飲みながら、フォーダートは、裏返したりすかしてみたりしながら確かめているアルザスを眺める。
「じゃ、じゃあ、あなた、あの時、芝居を?」
 ライーザが驚いた顔のままで聞いてきた。さすがにフォーダートは困った顔をした。ライーザは人質だったのである。まさか、その命の取引場所に、にせものを持ってくるなどとはあまりにも非常識である。
 フォーダートは、それに気づいて複雑な顔をしているライーザに恐る恐る言った。
「い、いや、本物は、い、一応持っていこうと思ってたんだけど、その…なんだ…。」
 フォーダートはアルザスに捨て犬がえさをねだるときのような、いやに切なそうな目を向ける。だが、アルザスは自分も共犯だと思われると大変だとばかり、目をすいっと逸らした。アルザスからも救援を断られ、フォーダートは、ごまかすように笑いながら、そうっとライーザをうかがった。
「…持っていくの忘れちまって…その、なあ。」
 アルザスから見ても、フォーダートがわざと置いていったのか、それとも本気で忘れたのかはわからない。だが、アルザスにはそれでよくても、当事者のライーザにとっては冗談ではすまないだろう。
「へえ、そうなの。…一大事に交渉道具を忘れるなんて、いい度胸なのねえ。あたしの命って案外安いのかしら?」
 彼女の言葉はとげとげで実に冷たかった。ライーザの厳しい視線にさらされて、フォーダートは彼女の機嫌を直そうと、そうっと上目遣いに彼女を見上げて苦笑する。
「そ、そ、そんなわけねえじゃないか! その、ゆ、許してくれよ。ホントにうっかり忘れて……! そ、それでポスターの切れ端で代用を…。」
 その慌てっぷりはどうも怪しい。もしかしたら、フォーダートは策略にかけるつもりで、あらかじめ偽者を用意していたのかもしれないとアルザスは思った。地図が消えたと思い込みさえすれば、あのデラインの連中も、もう諦めるであろうから。だが、本当にそうであったところで、この状況で本当の事など言えるはずもない。ふん、とライーザが顔を背ける。それを見て落ち込んでいる様子のフォーダートに、アルザスは彼の心情を無視して訊いた。
「それで、水でぬらしてもふやけなかったのか?」
「そういうことだ。その地図、紙で出来てねえらしいからな。」
 まだ後ろめたそうな顔をして、机に突っ伏しているフォーダートは、アルザスの問いにそう答えた。そして、思い出したように指をはじいてもう一つの袋をアルザスのほうに押しやった。
「ついでにそれもやるよ。どうせ、オレはそんなもんいらねえし。」
「なんだこれ?」
 もらえるもんならもらっても。と、アルザスが袋を丁重にあける。何かのオブジェかと思ったのだが、出てきたのは銀で作られているらしい天秤だった。細やかな装飾と、随所随所にちりばめられた紅玉を見ると、かなりの値打ち物だということがうといアルザスにでもわかった。そして、もう一つ、何か天秤の皿の上に古代文字らしいものが書かれており、更に腕の真中にはどう考えても方位磁針らしいものが埋め込まれているのだった。
「こ、これって…」
 機嫌を直したのか、ライーザがアルザスの方を覗き込んできた。彼女もまた、その天秤に驚いているようだった。そして、ある可能性に気づく。
「これ、…もしかして、あれじゃないの?」
 フォーダートのほうを見てライーザは訊いた。
「これが『羅針盤』?」
「そうだ。…天秤の羅針盤っていうらしいんだがな。」
 フォーダートはにやりと笑いながら、頬杖をついていた右手を外してひょいと指を皿に向けた。
「こっちの皿に探したいものの手がかりを置くだろ。そうすれば、重さで反対側の皿が傾くよな。…そこでこの地図を広げる。と、この天秤を釣り合わせるもの、つまるところ宝なんかだな、それの在り処を地図の上に浮かび上がらせる事が出来る。」
 フォーダートは、また右手で頬杖をつきながら言った。
「オレも一回しかやったことねえんだが――」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 ライーザは声を高めた。
「あなた、やっぱりこれをもってるってことは、フォーダートさん、あなた……」
「もしかして、あんたがダ……」
 フォーダートは不意に頬杖をつくのをやめて、姿勢を正した。
「その名前はよしてくれよ。オレがガキの頃に調子に乗ってた名前だからな。今聞くと恥ずかしくて――」
 ふっと微笑んだ後、フォーダートは右手のリストバンドを外し、中にある包帯をほどいた。はらりと、包帯が床に落ちた。
「お察しどおり…」
 アルザスの目に、くっきりと鮮やかな赤い炎の鳥の刺青が浮かんでいた。あのテルダーの息子にあるという、それである。
 アルザスとライーザの視線を受けながら、フォーダートは少しだけ寂しそうに笑った。
「オレがあの時地図を盗んで逃げたキィス=テルダーの息子だよ。」


 
 
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©akihiko wataragi.2003
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