ならず者航海記・幻想の冒険者達 ©渡来亜輝彦2003
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三、丘の幽霊屋敷
 港町の大通りをまっすぐ進んだところに丘がある。そこに古めかしい洋館が建っているがもうボロボロである。いつ建ったものなのか誰もきちんとは知らないが、昔どこかの貴族が建てたものだという。所々、ひびの入ったガラスの奥にゴチャゴチャにひっくり返されたタンスやテーブル・・。そしてボロボロに破けたカーテンなどがちらちらしているのも見える。
 昔はどんなに美しい屋敷だったのだろうと思うが、今ではもう見る影がない。幽霊屋敷とはよく言ったものだ。
 もちろん、肝試し好きの子供達がよく探検とか称して、出たり入ったりしているものだからアルザスにもライーザにも、昔よく遊んだなじみの屋敷だった。そんなぼろ屋になにがあるのか?それが全くわからない・・。
 近道を通ったせいもあるのだが、海賊達はまだ洋館にたどり着いていなかったようだ。あたりには全く人影がないし人が入った形跡もなかった。
 アルザスは壊れかけた石塀に足を引っかけて軽々塀を飛び越えた。ちょっとした高さはあるが、今更門までまわるのが面倒くさいからだろう。かなり慣れた動作だった。
「中に入ってようぜ」
先に行ってもライーザをしっかり待ってやるあたり、なかなかいい所があるのだが、一方のライーザはそれが当然よ。という態度だ。いつものことなのだからアルザスもなれたもので、いちいち気に留めたりしない。
 ライーザもアルザスと同じように塀をのぼって、飛び降りた。スカートをはいているのに・・・といいたいお転婆なポーズである。一応、そのために中にズボンをはいているのだから別に文句は言えないが・・・。
「ねえ。さっきの奴もここに来るのかしら?」
 ライーザが不意に聞いた。
「あいつ・・。ひょっとしてサーペントに何か恨みでもあるのかも知れないわよね」
「すげえ剣幕だったものな。ひょっとして、百年目の仇なのかもよ?芝居でよくあるじゃないか?あんなの」
  不謹慎なライーザはのんきに笑った。
「もしそうだとしたら何かどきどきするわね。ナマで海賊同士の喧嘩を見られるなんてめったにないわよ?」
冗談めかして軽く片目をつむってみせる。
「ようやくオレも本業らしくなってきたじゃねえか。後はいい出資者を探してっと」
「そうよね。協力者がいないとね。あんたんとこは、どこが出資してたんだって?」
「そりゃ、うちの一家は有名だからいろいろ来てたみたいだけど・・・。まだオレみたいな駆け出しには無理だしな。パトロンなんて・・・」
「七光りにはあやかれないの?」
「お前ね・・・。オレの一家がどれほど偏屈なのか知ってるだろ。パトロンのほとんどが小さい会社なんだよな。気に入らない会社を蹴ってるらしくて、大会社がいないんだよな。だからこれ以上はたかるわけにもいかねえし・・」
アルザスは深くため息をつきながら、ぶつぶつ言った。
「全く、有名冒険家のご子息なのに七光りにあやかれないなんて何の得もないわねえ」
ライーザは鋭くつっこみながら、ニヤーッと笑った。
「まあ。あたしのとこは一応パトロンよ。ただし、あんたの家に出してるってだけだからあたし達の取り分は少ないけどないよりましよ。うちも大きい会社じゃないからね」
「よく言うぜ。でかい港に会社があるんだろ?」
ライーザは首を振った。
「それは商品を売りさばく為よ。実家はここだし。ま、一年に一回戻って来るくらいだけど。この町唯一の貿易商っていわれればその通りよね。でもあんたんとこもみんな強情っぱりばっかりなんだから」
「おまえのとこだってそうだろうが・・。まあいいさ。“始めの冒険には困難が付き物だ。”ってな。オレの家の家訓みたいなもんだ」
「それって家訓?ろくな家訓のない家ね」
あきれかえったライーザがアルザスに首をすくめて見せたがアルザスは平気の平左である。
ライーザを納得させるように、
「仕方がないだろ。一家はどこかおかしいんだ。しかも単純だから手に負えないんだよな」
あんたはどうなのよ。といいたいが、きりがないのでやめたライーザにアルザスが話題を変えていった。
「なあ。ここに何があると思う?あいつのいうとおりだとしたら・・・」
「宝物・・・とかじゃない?」
「いや。昔見たとき怪しい物なんて何もなかったぞ」
「そうねえ」
 少し考えてライーザは目を輝かせた。
「ねえ。床下はいかなかったでしょ?何カ所か床が抜けてたと思うけど・・」
「床下?あんな埃っぽいとこにか?」
「そうよ!よく考えたらあそこだけは行かなかったじゃない!物が隠せるとしたらあそこしかないわ」
 アルザスはちょっと腕組みした。考え込む姿は実に不似合いだがそんなことをいっている場合でもない。
「そうか・・。確かにあそこは行かなかったけど・・・。 まあいいか。有るか無いか入ってみねえとわからないもんな。 よーし。突撃開始!」
「じゃ、とっとといくわよ」
 ライーザは扉までとことこ進んでいくと迷うことなく、重い扉の取っ手を引っ張った。結構力もある彼女は難なく扉を開けたが突然巻き起こる埃に咳き込んだ。アルザスは埃を払いながらうんざりした顔をする。
「これだけは冗談じゃないぜ」
 と、突然背後が騒がしくなった。海賊達が来たのだ!パッと見るだけで三十人くらいいるようだった。
「やばい!ちょっとゆっくりしすぎたな!行こうぜ!ライーザ!」
 ライーザの左手をつかんでアルザスは屋敷に走り込んだ。埃はすごくちょっと薄暗かったがカンテラがいるほどではないようだ。引っ張られていたライーザがアルザスの手を軽く振り払う。
「後には引けないわよね!」
緊張感はあるらしいがライーザらしい強気な笑みをアルザスに投げる。
「わかってるさ!」
 邸内は何ともぐちゃごちゃっとしていたが、タンスのひっくり返ってるのは少なくともアルザスのせいだろう。何しろ、昔アルザスが蹴り飛ばしたタンスなのだから・・・。埃をかぶった柱時計・・・ひっくり返ったテーブル・・・・・。懐かしいと言えば懐かしい。
 今は感傷に浸っている場合ではないのだ。
 ダーン
突然背後から銃声が聞こえた。
「うわ。撃ってきやがった!」
アルザスはちらっと後ろを見やり、海賊達がなだれ込んでくるのを確認した。
「大広間の床が一部抜けてたわよねえ?」
「たしかな」
答えたアルザスの足下に銃弾が突き刺さった。
 しかし二人は止まらない。気づいていないのかそれとも気づいていても止まれば絶望だからかもしれない。大広間の扉は目の前にある!
 アルザスは大広間の扉を蹴破って思いっきり部屋に踏み込んだ。
「どわっ!」
踏み込んだとたん、アルザスの足が床にめり込んだ。ライーザがアルザスのドジを叱責するように言った。
「もう!何やってんのよ!早く足ぃ抜きなさいよ!ドジ」
「ば、バカっ!抜けねえんだよ!」
「ええっ!」
 アルザスは焦りながら右足首をつかんで引っ張ったが、全然抜けない。
「ダメだっ!抜けねえ。この板腐ってるんじゃねえのか?」
「あんたって本当間が悪いんだから!注意力散漫なのよ!」
「仕方ねえだろ!わざとじゃねえんだ!」
 ライーザはよーしと言ってアルザスの左肩を踏んづけて、襟首をひっつかんだ。
ついでに首のバンダナまで引っ張っていることには何ら気づかない。
思いっきりひっぱる。首を絞められる形になってアルザスが悲鳴を上げた。
「バッバカ!首が絞まるっていってんだよ!やめろライーザ!」
「抜けられるんだからちょっとぐらい我慢しろっての!」
「お前・・・オレの命はどうでもいいのか!」
「うるさいわね!捕まっても命が危ないの!がたがたいうんじゃないわよ!」
 とんでもない会話を交わしながら二人は右足を抜こうと懸命だったのであった。
「あとちょっとで抜けそうよ!」
 ライーザが喜色を浮かべてそうつぶやいた。
 まさにその時・・・背後から口汚い罵り声が聞こえたのである。
どうも外国語らしく二人には聞き取ることができなかった。
 しかし、ライーザをびっくりさせるには、それだけで十分だった。
バランスを崩してたたら足を思いっきり踏んでしまったのだった。腐りかけていた床はすでに二人が力を
かけていた時点で弓なりになっていたのだが、さっきの振動ですっかり床が抜けてしまった。
 アルザスもライーザも、抜けた床とともに床下へ・・・。
残された男は、すっかり気を取られてぼーっとしてしまって、追いかけることも忘れていた。 
 

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素材:トリスの市場
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