戻る 一覧 二章 十、イアード=サイドに・・・ 格納庫の鍵を急いであけて二人は素早く潜り込む。 なにしろ今度捕まれば弁解の言葉もなしに即射殺されそうなので、さすがの二人ものんびりなんぞしてられないのである。背後を振り返ったわけではない。 だから、サーペントがどこまでやって来ているかはわからなかった。 飛行機は中古で古いが、この前整備だけはしといたので飛べないことはなさそうだ。 少なくともそう信じたい心境だ。 飛行機はいわゆる複葉機で、デザインがかなり古くてあまり格好良くはない。 操縦席に飛び乗り、アルザスはエンジンをまわす。 「ライーザ。早く乗れよ。」 「もう乗ってるわよ。早く格納庫から出してってば!」 後部座席のライーザはポニーテールに結んだ髪を下ろして、下の方でまとめていた。いつの間にか飛行帽子をかぶり、飛行眼鏡をかけているあたりなかなか素早い。 「でも、慎重にゆっくりやってよね。」 言ってることが矛盾している。 格納庫から飛行機を出すまではいいのだが、近くの短い滑走路を走り出すとさすがに不安感が募る。 ライーザが後ろから叫んだ。 「あんたっ!失敗したら承知しないからね!」 「うるさいな。炎上したら修理した奴を恨めよ!いい加減だぞ!あのタイプは!畜生!失敗したら祟ってやるからな。呪うぞ!実の息子の呪いで人生にけちがつきまくったらいいんだ!」 きっちりディアスに呪いの言葉をはきながら、アルザスは離陸にかかる。 何とか飛行機は空に持ち上がった。離れていく地面が、ライーザの目に映る。やがて、飛行機は夜になりつつある空に飛び上がった。 一気に上昇すると町の灯がきらきら光って下に見えていた。海の沖には漁り火が見え始め、暗闇に宝石をちりばめたようで綺麗だった。 「やったあ!やるじゃないのっ!」 ライーザの歓喜の声が後方で響く。その声に答えるようにアルザスは大きくくしゃみをした。 高度が上がったので、だんだん寒くなってきたのだ。 「寒いんでしょ?もう。あんたって本当馬鹿なんだから。」 一端の女パイロット張りの格好をしたライーザがちょっと身を乗り出して、前方席にジャケットと帽子を差し入れた。これで意外に気が利くのである。 「おう。悪ぃなあ。」 アルザスは礼を言って、感謝のしるしに手をひらひら振った。 「ねえ!あれあいつらかしら?」 ライーザが地面をさしてアルザスに尋ねる。自警団らしい連中に追われて、サーペントが必死で逃げているらしかった。光の群が港に一目散に走っている。 「サトラッタの爺さんが気を利かして自警団の一部にオレ達の後を追わせたんだな。全くあの爺さんの狸知恵には参るよなあ。」 助けてもらってるくせにこの態度である。サトラッタが聞くとあとで強烈な説教をされそうだが、こうでなければアルザスらしくない。そうライーザも思っている。 「ざまあ見ろって感じよね。ああいう悪党はとっとと海上警察に突きだしゃいいんだけどなあ。さすがに突き出すまではむりよね。」 「あいつらしつこいからなあ。」 「でもさ・・・あいつら自警団の連中なんかに怯えるかしら。サトラッタなら少しは脅せるかも知れないけど、あんなに人数が多いんだから逆に自棄になって町の子供とかを人質に取りかねないじゃない。なのにあんなに素直なんて・・・。」 ライーザは小首を傾げ、アルザスに意見を求める。後方を振り返らず、アルザスがそれに応えた。 「オレは・・・あの逆十字って奴がサーペントにもう一度脅しをきかせたんじゃないかっておもうんだ。そんな気がする。」 夜の風が耳の横を通り過ぎる。 ひときわ鋭いヒュウをいう音が耳に残って、二人の胸中に例の男の姿を大きく浮かび上がらせるのだった。サーペントみたいな奴が悪魔と呼ぶ『逆十字』・・・。 「ねえ。あたし・・・あの人もこれを狙ってる気がするのよ。」 ライーザは懐の裏ポケットの地図をさわりながらぽつりと呟いた。 「ああ・・・。オレもそう思う。目的が宝かどうかってのはオレには見当もつかないけど。」 アルザスは機体を旋回させ、方向をイアード=サイドに向けた。 「やっぱりただもんじゃないんだぜ。あのおっさんは。」 「そうよね。」 そう呟いて、フッと下を見たライーザが歓声を上げた。 「ちょっと、下見て下っ!」 「あん?」 ライーザがやかましいので下を見る。 下の方から花火が二度ほどあがった。人が集まって何か叫んでいる。 ここから顔はわからないが、サトラッタやダーテアスやディック達の顔がはっきり二人の心には浮かんだ。 「いい奴らだなあ。」 思わずしみじみしたが、ライーザの前で涙なんか浮かべられない。これでも意地があるのだから。 アルザスはその場で手を振る代わりに二回ほど空を旋回してみせた。 「あばよ!きっと帰ってくるからな!」 聞こえないだろうが、アルザスは声の限り叫んだ。 「またね!元気でね!」 ライーザが大声で叫び、片手を大きく振って笑った。 「よーし!イアード=サイドにしゅっぱーつ!」 ライーザの声が背後から聞こえ、アルザスは自信満々に笑って返事をした。 「おう!」 スピードをあげて複葉機は夜の闇に入り込んでいった。そのヘッドライトが一つ一つ増えていく星の中に紛れ込んでいくように地上からは見えたに違いない。 その様子をあの青い瞳が地上から見つめていたことには二人は気づく由もなかった。 戻る一覧 二章 |
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