ならず者航海記・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2005
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ならず者航海記:孤島の科学者編

 

2.大機械塔迷宮-1

 鉄屑の崩れる音が凄まじい。がらがらがらという音と共に、扉から小さな歯車が飛び出してきて、ころころと土の上を転がる。
「うおお、駄目だ!」
 それと同時に屋敷の扉から転がるようにでてきた三人は、その場に倒れ込んだ。
「な、なんで、あんなもんが…!」
「オレが知るかっ!」
 アルザスが興奮気味に聞くが、フォーダートにもわかるはずがない。さっき、階段の上から鉄屑の固まりと箱には入った歯車の固まりがなだれ込んできたのだ。
「……な、何にせよ、ちょっと落ち着こうぜ。……や、休めばまともな判断ができるはず…。」
 その時点で落ち着いていないんだろ、と言いたい気持ちを抑えつつ、疲れ果てたアルザスはその場に倒れ込んだ。
「これで何度目だっけ…。」
 横で座り込んでいるフォーダートは急に老け込んだように見える。アルザスの問いに息を整えながら彼はよろよろと指を三本たてながら、ため息をついた。
「多分、さ、三度目だろ。」
「…そうだったか? もう、十回は外に出てきたような気がするぜ、オレ。」
「ああ、なんだか、オレもな。」
 フォーダートは、深々と嘆息した。背をかがめながら座り込んだ彼は、ポツリと一言漏らす。
「あぁ、…もう嫌だ…」
「いやだって…どうすんだよ、おっさん。」
 横でぐったりと寝転がっているアルザスも、フォーダートと劣らぬほどに憔悴していた。オレも嫌だよ、と言いたげな口調だったが、それでもまだ若い分、アルザスの方が元気がいいらしい。
「……帰りたい。許されることなら、オレは海の上に帰りたい。鉄屑の中で死ぬのは嫌だ。」
 ぶつぶつと小声でそんなことを呟いているフォーダートの頭に、小さなねじが投げられた。
「あいてっ!」
「お、おお、直撃…。」
 ちょうどいい具合に当たって、フォーダートは頭をおさえつつ、それが飛んできた方向をむいた。そこに立っているライーザは、なにやら逆光を浴びているので、いつもの倍は迫力があった。
「ちょっと、何くさってるのよ? へこんでる場合じゃないでしょ。」
 ライーザの怒号が響く。フォーダートは、ふうとため息をついた。
「そんな事言われても…。」
「言われてもじゃないでしょ! 野郎の癖に泣き言いってんじゃないの!」
十歳年下の少女に言われると情けない。のだが、今のフォーダートにはそういう感覚もあまりなくなっていた。それよりも、自分とアルザスがここまでふらふらしているときに、どうしてライーザがあれほど元気なのかの方が気になる。
「なんで、あいつはあんなに元気なんだ。」
「さぁ、そういや本で見たな〜。人間って女の方が頑丈にできてるんだって…最後まで生き残るのって女らしい…」
「あー、そういえ…わああああ!」
 地面につけていた手を踏まれそうになり、フォーダートは慌てて手を避けた。
「何か、あたしの悪口とかいった?」
「いえっ、いえいえ、言っていません! ア、アルザス…お前…っ!」
 助けを求めようとしたが、アルザスは知らん顔だ。むしろ、フォーダートが被害を受けている内に、こっそりと遠ざかっている。フォーダートは男の友情の儚さを思い知りながら、ライーザの鋭い眼差しを浴びていた。
 その様子にライーザは、ため息をつき、軽く肩をすくめる。
「…まったく、仕方ないわね。あんたのお友達なんでしょ?」
「と、友達って言うか、オレは友達だって一言も……。」
 フォーダートは歯切れの悪い言い方をしながら、あごをなでた。
「この前オレが来たときには、こんな大迷宮にはなってなかったんだが…。い、いつの間に?」
「大迷宮っていうか、……なんで、一般人の邸宅に入っただけで、大きな歯車が階段の上から落ちてくるんだ。」
 アルザスが肩をすくめながら聞いた。
「片づけてないからだと思うが、それにしてもひでえな…。」
 仕方ないわねえ、と言いながら、ライーザは腰に手を当てた。
「ホントに中にお友達はいないのね?」
「だから、お友達っていうんじゃ……。…うーん、何度呼び鈴押しても出てこないし、多分留守なんじゃねえかと。留守じゃなかったら、中で餓死してそうでちょっとなあ…。」
 不穏な事をいう彼に、アルザスはわずかに眉をひそめる。
「不吉だな…。そういう奴なのか?」
「ん、ああ…。けして悪い奴じゃないんだが、研究にのめりこむとちょっとな……。」
 どこか遠い目をしながらフォーダートは、ため息混じりに言った。
「いわゆるマッドサイエンティストってやつなんだよ。あいつ。」
「マッドねえ…。でも、マッドはマッドでも…」
 しみじみといったフォーダートの言葉を受けながら、アルザスは、彼らをこんな気分にさせた原因の館を見上げた。
 見かけはちょっとした幽霊屋敷といった感じだが、その尖塔の屋根の上についているのは、アンテナらしき代物だ。所々に補強されるようについている鉄の部品が、何ともまがまがしさを増大させている。玄関付近に置いてある謎の鉄の機械は一体何をするものだろう。
「…これはやりすぎじゃねえの。」
「ああ、オレもそうおもう。」
 しかも、本人がどこにいるやらわからない。迷宮と化した屋敷の中を思い浮かべながら、二人はすっかり疲れ果てた。
「もう、自称冒険家と悪党が何やってるのよ! 山があったら制覇したいと思う人種でしょうが、あんた達!」
 ライーザが檄を飛ばす。
「ほら! もう一度、行くんでしょ!」
「わ、わかったって。」
 アルザスがなだめるようにいい、ようやく起きあがった。疲れ果てたフォーダートも起きあがり、持ってきていた拳銃に弾を込めなおしている。つまり、来るときに入れて置いた弾丸は全部使い果たしてしまったのだ。
「なあ、おっさん。」
 不意にアルザスに声を掛けられ、作業を続けながら、フォーダートは振りむいた。
「なんだよ?」
「……なんで、オレ達は、一般人のお宅にお邪魔するのにそんな風に武装してるんだよ?」
 アルザスが分かり切ったことを訊く。
「言うな、オレも考えたくない。」
そう答えるフォーダートの疲れ果てた言葉を聞きながら、アルザスは、今までのことを思い出していた。


 
 
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背景:トリスの市場
©akihiko wataragi.2005
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