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壮太と鬼炎


山道を歩きながら、壮太は、後ろを振り返った。菅笠を被った痩せた雲水が、道ばたで一休みしている。荷物を抱えた壮太は肩をすくめた。また、さぼっているらしいのだ。
「こら! 幽霊坊主! 何休んでるんだよ!?」
 草むらの上にあぐらをかいて、ほおづえをついてすっかり休んでいる様子の雲水は、笠を深く被った顔をわずかに上げる。
 深く刻まれたしわに、割と人の良さそうな痩せた顔が覗く。この期に及んで、まだへらっと笑っている彼は、いけしゃあしゃあと壮太に向かってこういう。
「いやぁのう、わしもすっかり老いぼれたもんじゃから、山道が辛くてな。それに荷物も重いし…」
「オレが全部持ってるだろ。」
「ありゃ、そうじゃったっけな?」
「今日中に次の宿場町にいくって話だろ!」
 そばを次々と旅支度の旅人が歩いていく。街道筋とはいえ、夜を野で過ごすのは危険である。近頃は追いはぎも多いという話も聞く。
「なぁに心配することはないじゃろ。」
 いやに自信満々に、老僧はぽんと自分の懐を叩いた。
「どうせ、わしらは金など盗られるほどもっとらんからの〜。そんなものは杞憂にすぎぬわ。心配するだけ無駄無駄。ほほほほほ。」
「自慢するなよ…」
 あきれる壮太をみながら、老僧は、やれやれといって寝かしていた錫杖を取り上げて、よっこいしょと声を出しながら立ち上がる。
「しかたがない奴じゃなあ。これだから若い衆と旅をすると疲れるんじゃ。全く、無駄に急ぎすぎる。」
「誰が頼んだんだよ。親父に荷物もち兼用心棒で息子をかしてくれっていったのは確かあんた…」
 壮太は顔をしかめた。そうだ。この鬼の炎で鬼炎という名の変わり者の坊主の供をして旅に出なければならなくなったのは、この爺が父の友人だったからに他ならない。急遽旅に出なければならない用事があるとかで、老いた身であるにもかかわらず供がいないので不安だとかいって、父に頼み込んで、壮太を荷物持ちにつけたのである。
「またまたぁ、過去のことを気にする…。悟りの境地からはほど遠いの。」
「オレは坊主になる予定はないよ。」
 壮太はため息混じりに言い返しながら、大陸の言葉で幽霊の炎を意味する名前の老僧をみる。静かで穏やかな眼差しだが、坊主というにはほど遠い感じがするのは、人生を楽しんでいる感じがするからだろうか。
 だが、壮太は薄々感づいている。時々、鬼炎が射手が獲物を射抜くような目で世界をみていることを――。
「ほら、もう行かないと。」
「そうじゃの〜。早く目的地までつかぬと、ぬしの短い青春も終わってしまうしの。」
 鬼炎はそういってかかか、と笑った。
「人生でいっちばん楽しい時期をこんな枯れた坊主と、花のない旅をせねばならんとは、おぬしも大概地獄じゃな。」
「わかってんなら、さっさと歩けよ! クソ爺!」
 壮太は怒鳴りつけて、さっさと歩き始めた。
「あっ、壮太! わしをおいていくつもりか! 身よりのない哀れな老いぼれの爺におぬしという奴はなんという冷たい…」
「だーっ! ちょっと早足で歩いただけだろ!」
 ちょっと置いていくとこれだから、とばかり、壮太はため息をつく。
 何にせよ、しばらくはこの旅が続くのだ。こうなった以上は、自分の責任を果たしつつ、せいぜい楽しもうと思う。





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背景:自然いっぱいの素材集様からお借りしました。
©akihiko wataragi
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