Zekard・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2003



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4.Z-E-K-A-R-D-2
 急に、人通りが少なくなる。まだ、時刻は午後二時半。住宅街に入る道ではあるが、ここは人気がなく、資材置き場や廃工場が立ち並んでいた。しばらく走ると、全く人気も感じなくなる。寂しい場所だ。ここは当然、通学路ではない。ファンドラッドは、一気にスピードを上げて突っ切ろうとしたのだが、急にジャックが声を上げた。
「あ!爺さん!止まって!!」
「どうした?」
 注意を向けるファンドラッドに、ジャックは横道を指差した。そこにあるものを一瞬で見分けると、ファンドラッドはブレーキを引き、スピードを緩めて一気にUターンした。
「シェロル!」
 横道の方は、廃工場の方だった。ちょうど、少女が数人の男に抱きかかえられ、無理やり車に乗せられようとしているところだった。
「あれだよ!早く助けてやれよ!」
「うるさい!耳元でがーがー言うな!」
 ファンドラッドは、ジャックにそういうとスピードを上げた。しかし、男たちも彼の存在に気付いたようだった。慌てた様子で連絡をとり、少女をさっさと車に押し入れる。
 一瞬、シェロルが彼らの方を向いた。そして、口を大きく開けた。だが声にはならず、閉まる自動車の鋼鉄ドアに遮られた。すぐさま、車はドアを閉め、急発進した。
「ちっ!遅かったか!」
 ファンドラッドは舌打ちした。
「何やってんだよ!追いかけないと!」
「お前に言われるまでもな…!」
 ファンドラッドは応えかけたが、慌てて後ろのジャックを掴むとバイクを乗り捨てた。バイクは横滑りを起こしながら、やがて廃工場の壁に激突して大きな音を立て、いくらかの部品が吹っ飛んだ。すたん、と、そばに降り立った彼は、ジャックを下ろしてさっと左右に目をやった。先程バイクが走っていた場所には、何発かの銃弾がめり込んでいた。そばに数名の男が立っている。全員、かなり強力そうな銃を構えていた。
「用意周到だね、意外と。前に出るなよ。ジャック。」
 ファンドラッドはジャックをかばう形で前に立ちはだかった。
「話し合いでもしないかい?いきなり、暴力的手段に出るのは、あまり感心しないなあ。」
 いつものように彼は言いながら、少し前に足を進める。だが、相手は無言だ。ファンドラッドは、相手に交渉する気がないのを見て取ると、深くため息をついた。
「…仕方がないね。僕は、元々紳士だから、こういうことは好きじゃないんだけどなあ。」
 ジャックはえらいことになったな、と思いながら、ヘルメットを外した。このままのほうが安全ではあるが、少しぶかぶかのそれはジャックの視界を大きく妨げてしまうし、逆に危険だと思ったからである。不意に、彼の一、二メートル先に、ウサギのキーホルダーが転がっていた。それは、いつもシェロルのランドセルにくっついていたものだ。それを思い出すと、ジャックはふらっと前に出た。確か、あれは大切にしていたような気がする。あとでなかったら困るだろう。
 はっとファンドラッドは、ジャックの方を見た。すでに彼はファンドラッドよりも半歩前に出ていた。前の男達は、彼が動き始めたのを合図に、行動に移ろうとしている。咄嗟に、ファンドラッドは、ジャックを突き飛ばした。
「馬鹿!ジャック!前に出るな!」
 それと、男たちが動いたのは、同時だった。ファンドラッドは出遅れてしまったのである。
 突然、ファンドラッドのコートが、ばっと破けたような気がした。
「あ!」
 転んでいたジャックは声をあげた。ファンドラッドの方から、赤い飛沫が飛んだのがみえた。彼はバランスを崩したが、少しよろけただけで何とか、倒れずにはすんだ。しかし、足元には、ぼたぼたと赤いものが落ちた。
「く…」
 ファンドラッドは、胸を押さえ、それから苦笑した。銃弾は、完全に彼の胸を貫いているらしかった。しかも、それは一発ではない。二発ほどが命中しているらしかった。
「はは…こんな特殊弾を持ってくるなんて…想定外もいいとこだよ…。油断したなぁ。」
 彼は皮肉っぽく呟く。  
「爺さん!」
 ジャックが慌てて駆け寄ろうとしたが、それは間に合わなかった。ジャックは後ろから、何者かにつかまれ、逆に引き倒された。
「…な、何すんだよお!!」
 ジャックは叫んだ。後ろには、戦闘服風の動きやすい姿をした男が二人掛りでジャックを押さえつけていた。
「ついでにこいつも連れて行け!」
 リーダーらしきものが、命令を下すと、彼らはジャックを止めてあった別の車に押し込もうとし始めた。
「やだよ!放せってばあ!爺さん!!」
 ジャックは、叫びながら必死で抵抗する。口を押さえようとした男が手を噛み付かれ、カッとして銃を取り出した。
「ジャック!抵抗はよせ!」
 ファンドラッドの声がした。ジャックは、はた、ともがくのをやめた。
「全く、お前にはいつも足を引っぱられるな。…たまには役に立つんだよ、ジャック?」
 ファンドラッドは皮肉っぽく笑いながら、ジャックにそっと目配せをした。ジャックはハッとし、思わずポケットの中をぎゅっと握り締めた。急に、彼は静かになり、口を引き結んだ。そのまま、ジャックは車のシートの上に投げ出された。
 突然、けたたましい銃声がした。ジャックはハッと顔を上げたが、車の窓ガラスには、全て目張りがされている。外の様子は見られなかった。続けて、それは何発も聞こえた。悲鳴などは聞こえなかったが、そこで何が行われているかぐらいは彼にもわかった。ジャックは思わず、目を閉じた。その後、何かが倒れるような音がした。
 車が発進する時の衝撃が伝わった。ジャックには、ファンドラッドがどうなったかということを知る術は無かった。
「やはり、あの銃弾を持ってきて正解でしたね。」
 部下らしい男が言った。
「やっぱり、奴は特殊な防弾チョッキでも着てたんでしょうか?」
「だろうな。」
 リーダーらしい男が応える。
「だが、あの銃弾で蜂の巣にしとけば、たとえ相手が機械でももう終わりだ。元から恨みを買いやすい男だったそうだからな。あとで見つかっても、足はつかないだろう?まぁ、あまり深入りしすぎたのが不運だったな。」
 彼はけらけらと笑った。車は、どんどんそこから遠ざかっていく。ジャックは妙に静かにしていた。先程の抵抗との差異があまりにも激しいので、横に座っていた大男が、にやにやしながら話しかけてきた。
「えらく落ち着いてるんだな、小僧。それとも、恐いのか?」
「これから恐い目見るのは、オレじゃないよ。どっちかってと、あんた達がかわいそうな番なんだから。」
 にやりとジャックはしながら、生意気にも足を組んだ。
「あんたら、あの爺を舐めすぎなんじゃないの?あんな中途半端なことでさあ、あの人がやられるとでも思ったのかよ?」
「どういう意味だ?」
 男がいぶかしげにしながらも、幾らか怒りを覚えてジャックを睨んだ。ジャックは、その脅しには負けないで、にやりと笑い返す。
「…あの人、いっとくけど、不死身だよ……。下手に突っつくとその後の報復が恐ろしいから、その辺よろしく。」
 ジャックはまだポケットに手を突っ込んでいた。そこで、彼が何を握っているのか、彼らはそれに目を留めていなかった。




 何とか隠蔽処理は終えた。ファンドラッドが、全部自分に押し付けていってしまったものだからひどく苦労はしたが、ケイテッドは、とりあえず言いつけられたことを全てこなしたので、それなりの満足感に浸っていた。ただ、内通者らしいものも、あの幽霊以外はいない。進入されたと考えたほうがよかった。そう思うと、ケイテッドは、平和ボケしつつあるこの軍隊に、一抹の不安を感じたりもするのである。
 突然電話が鳴った。休んでいたケイテッドは、ため息をつきながら電話にでる。タイミングが何て悪いんだろう。彼女が基地名と所属等を名乗ると、相手は愛想のいい声で答えた。
「はじめまして。私は、ラグ=ギーファスと申します。サヴァン大佐の下で働いている者ですが、ああ、階級は少尉です。」
 聞きなれない声だが、割と好感の持てる爽やかな声である。軍人らしくはないが。
「実は、今、ファンドラッド閣下から、極秘に頼まれものをしていて、あとでその物資を取りに行く事になったのですが、そちらの基地にあとで寄ることになると思うので、閣下のロッカーにあるショルダーバッグを出していてもらえませんか。急いでいるのです。」
「事情はわかりました。でも、あなたが本当に閣下から頼まれものをしているかどうかの証拠がないと受け付けられません。」
「それはそうですね。」
 ラグと名乗る男は苦笑した。
「では、私の写真入の身分証と閣下の書置きがありますので、あとで電子メールでお送りします。それで確認してくださいませんか?恐らく筆跡鑑定にかければわかりますし。」
「…引渡しの際、もう一度確認させてもらうと思いますが。」
 そういうと、ラグは、嬉しそうな声で言った。
「ええ、それでいいんです。もう少し、時間がかかると思いますし、なるべく私に対する疑いを晴らしてほしいので。」
「わかりました。」
 ケイテッドが事務的に応えると、電話の相手は丁寧に挨拶をして電話を切った。
 それから一、二分して、やがて、写真二枚が添えつけられたメールがケイテッドの使っていたコンピュータに届いた。と、時を同じくして足音が聞こえる。
「あら、ジャクソン少尉。終わったようね?」
 ジャクソン少尉は、辟易したように言った。彼も証拠隠滅に随分加わらされていたのである。
「全く参りましたよ。あんな無茶な命令なんて初めてです。…で、何見てるんですか?」
 ジャクソンはひょいとそれを覗き込んで、驚いて声を上げた。
「こ、これ!」
 ケイテッドは大体の事情を飲み込んでクスリと微笑んだ。写真の青年は、金髪の美青年である。あの幽霊と外見が一致していた。
「今の電話、あなたの見た幽霊さんからだったようね。」
 そういってケイテッドはジャクソン少尉の青ざめた顔をおもしろそうにみた。



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©akihiko wataragi
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