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絶望要塞トップへ 4. 外の世界にいくのは久しぶりだった。ファンドラッドは将軍らしくしろい馬を駆っていた。ナツは、ファンドラッドの鞍の後ろに乗せてもらっていた。ナツも馬に乗れなくはないのだが、ファンドラッドの速度で走ることは絶対に出来ない。口先だけの将軍ではないことを、こういうときだけ、ナツはしみじみと感じた。戦う姿は見ていなくても、これだけ馬を操れるのならそうとう強いはずだと、ナツは子供心に小さい頃から感じていた。 今日向かったのは、要塞から少し離れた小さな村である。ファンドラッドは、ここはスースンの村だと教えてくれた。 「さて、私は村人と話があるんでね。お前は、子供達と遊んできなさい。」 ファンドラッドは、そういって小遣いにと、銅貨を三枚手渡した。ファンドラッドは、相変わらず軍服であったが、どことなくいつもにまして洒落っ気を発揮していて、さりげなく一番良いマントを羽織っていた。そういえば、今までは、村で買い物をすることはあっても、話に行くということはなかった。なにか事情があるようだった。 時々、こうして、そとの世界に連れていってくれるが、ナツはファンドラッドが何をしに出かけているのかよく知らない。おまけに部下も連れてこないのである。部下を連れてこない理由を昔聞いたことがあるが、ファンドラッドは笑って、 「大げさなことはきらいでね。」 と応えただけだった。それは、本当かも知れない。ファンドラッドほど、あまり威張らない将軍も珍しいし、また、部下などという面倒なものがなくても危険を切り抜ける自信もあるのだろう。 ファンドラッドが行ってしまってから、ナツはあたりを見回して子供達を探した。この村では、何度か一緒に遊んだ友達がいて、その子達がいる場所もあらかた知っていた。 「よう!久しぶりだな。」 案の定、活発そうな五人ほどの少年達が森のちかくにいて、ナツを見て声をかけてきた。つりでもしにいくつもりなのか、竿とバケツを持っている。 「釣りにいくのかい?」 「まぁな。お前も行くか?」 少年達のリーダーが尋ねた。気のいい連中らしく、よそ者のナツでも快く迎え入れてくれる。要塞の大人達とは別の感覚でこの少年達とは友達だと思っていた。 「あ、ちょっと待てよ。お前がいるって事は、あの将軍様もいらっしゃるわけだな?」 少年は、思い出したように話を変えた。 「ああ、来てるよ。」 「じゃ、つりはやめて、将軍様見物に行こうぜ。」 つりよりもおもしろい物を見つけた!といわんばかりに少年は、仲間を振り返っていった。仲間の少年達も、皆、好奇心溢れる瞳を浮かべ、その案に賛成した。 しかし、ナツはおもしろくない。ファンドラッドなど見飽きているのである。普段出来ない釣りに行きたいに決まっていた。 「ええーっ!つりの方がいいよ!」 「ま、そういうなよっ!オレ達、お前と遊んでて、将軍様っつうもんをじっくり見たことがねえんだよ。それに、あの将軍ってすごいんだろ?」 「なにがさ?」 ナツは、不満顔だった。 「なにがって?お前、要塞で暮らしているのに知らないのか?」 少年は不思議そうにナツの顔をのぞき込んだ。 「あの将軍様は、幽霊なんだぞ。生きてるわけがねえってこの前、長老達がいってたんだ。」 ドキッとした。先程の奇妙なイタズラが頭に思い浮かんだ。 「な、なんだよっ!それ!」 「さあ。オレもそっからはしらねえんだ。だけど、そんな幽霊司令官なら、一度見ときたいっておもってさ。」 少年の言葉はナツには、トゲがあるように聞こえてしまっていた。 村の酒場にはたくさんの村人が集まっていた。そして、まんなかにファンドラッドが立っていた。彼は大声で演説していた。 「ランテラス本国は、我が軍には食料をほとんど回してきません。それは、ランテラスの力が弱まっている証拠です。要塞が陥落すれば、この村にもエヴェドーラの軍隊が押し寄せます!その時、本国の軍隊は逃げるか、貴族の護衛しかしません。この村は滅ぼされますよ。私は、強制しているわけではありません!ただ、私と兵士さえいれば、絶対に、要塞を陥落させたりしません!!もし、私に協力してくれると言うのなら、食料を少し回していただきたい!」 軍人特有の張りのある声だが、不思議と偉そうな感じは無いし、説得力がある感じがした。 ナツと少年達は、その男の後ろのあいた窓からそうっとのぞいていた。 「あれが、幽霊司令官かー!かっこいいー!」 少年の一人が小声で歓声を上げた。 「お前、すごい人と暮らしてるんだな。」 「まあね。」 持ち上げられて、ナツはまんざらでもなさそうだった。 ファンドラッドは、大きくジェスチャーをくわえながら、話の続きをしていた。どうやら、兵糧を確保するために説得に来たらしい。ナツには、状況がはっきりと飲み込めていなかった。 村人の長老らしい老人が口を開いた。今まで、言おうと思っていたことようやく口にするときの一種の緊張感が漂っていた。 「しかし、ファンドラッド将軍様・・・。」 「なにか・・・?」 老人は、まっすぐにファンドラッドを見据えていた。彼より、十歳は年上と思われる。 「わしは、昔の要塞の司令官をしっておる・・・。あんたと同じ名前の男じゃった。」 ファンドラッドは、無言だった。目をすっと老人に向けていた。 「そして、顔も覚えておる。あんたと全く同じ顔じゃった。それは、五十年も前の話じゃ。だが、あんたは今も同じ姿でここにいる・・・。これはどういうわけじゃ・・・。」 老人は射すくめるような視線でファンドラッド将軍を見た。それを聞いてファンドラッドは、ふてぶてしくニヤリと笑った。それは、ナツも見たことのない表情であった。ゾッとするようなその笑みに、村人は恐怖を覚えたようだった。だが、老人は、ひるまなかった。 「おまけにわしは、事の顛末を知って居る。あの要塞は五十年前、陥落したんじゃ。エヴェドーラの魔軍によって・・・。その前にファンドラッド将軍は死んだ。絶望要塞の絶望に取り憑かれて自殺したんじゃ!それをわしはよくしっておる!ならば、お主は何者何じゃ!応えてみるがいい!」 老人に指さされて、ファンドラッドは、低く笑った。まさに幽霊と間違われても仕方の無いような暗い笑いであった。 「幽霊司令官だといいたいのかね?私を・・・・・?」 「違うのか!」 今度は、村の若者が叫んだ。恐怖に堪えかねたという感じでもあった。 「それとも、魔物か!お前も、エヴェドーラの魔物か?」 「魔物・・・とは失礼な・・・。幽霊司令官とは、我ながらお似合いかも知れないがね。」 ファンドラッドの言葉遣いがかわっていた。 「魔物だろうが幽霊だろうが、どうでもいい事じゃないのか?私はお前達の味方だ!そして、我らが“絶望要塞”は動いている。エヴェドーラの配下ではなく、私たちの思いのままにな!このまま、要塞が陥落すれば確実にこの村は滅びる。エヴェドーラがどんな事をして、侵略をしたのか考えてみるがいい。時間は与える・・・。それからでもいい。ただ・・・、私の言葉を忘れるな・・・。」 ファンドラッドは説得を諦めたらしく、軽くため息をつくと村の門の方に戻っていった。そんな彼を、村人達は本物の幽霊を見るように見送っていた。 ナツは、走り出した。少年達は振り返ったが、彼に声をかけなかった。哀しい気分だった。ファンドラッドがかわいそうだからか、反対に何者かわからない彼が恐くなったのか。それとも、ナツも一瞬、ファンドラッドを疑ってしまったからかもしれない。わけがわからず哀しかったのだ。 村の門をでて、ファンドラッドは、寂しげに馬のところに戻ってきていた。ナツは慌てて走り寄った。彼が走ってくるのを見て、ファンドラッドは笑いを浮かべた。それは、全く普段と変わりなかった。 「おや、ナツ。遊んでこなかったのかい?」 「あ、ああ。遊んでたんだけど、山の上からウィンディーが帰ってくるのが見えたから。」 そういって、慌てて話を変えた。 「あ、もう用はすんだのか?」 「ははは。ま、とんだやぼ用だよ。お前さんが気にすることはないよ。もっと遊んでくればよかったのに・・。」 ナツは、ファンドラッドを正面から見ることが出来なかった。ファンドラッドの嘘がわかったからである。 その日は、大人しくすぐに要塞に帰った。 戻る 次へ 絶望要塞トップへ |
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