絶望要塞・幻想の冒険者達
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 5.
 夢を見ていた・・・。
 
 街には、炎が燃えさかっていた。しかし、そこはすでに街と言えるような建造物は何一つ無かった。壊れて、残骸になっているだけの人気のない場所だった。
 当時ナツと言う名前でなかったナツは、泣きながらそこを裸足で走っていた。裸足のため、飛び散ったガラスなどで足の裏から血が流れていた。知っている限りの人の名前を呼んだが、答えはなかった。
 ただ、恐かった。どこかに逃げたかっただけだった。
 ふと、前が暗くなった。大きな影が、小さいナツを覆った。それが、兵士だということは、いくら子供のナツにでもわかった。
 ナツは恐怖した。きっと、殺されるに違いないと思っていた。男の声が聞こえた。
「どうしたんだい?」
 予想を覆してその声は優しかった。
「みんなとはぐれてしまったのかな?」
ナツは声が出なかった。それをみて、男は、にっこり微笑んだ。
「安心していいんだよ。私は、敵じゃない。君を助けに来たんだ・・・。」
ようやくナツは泣きやみ、男を見上げた。炎の逆光を浴びて、その男の容貌はわからなかったが、なんとなく若い青年のような感じがした。だが、すぐにその男がしろい髪をしていることに気付いた。
「助けてくれるの?」
男は、うなずいてそっと手をさしのべた。
「一緒においで・・・。君の家族を探してあげよう・・・。」
ナツは、手を伸ばした。
 
 パッと光が飛んだ・・・。
 そこは、かつての戦場ではなかった。なにもない。荒野だった。
「ナツ!!」
ふと、ファンドラッドの声がした。慌てて振り返ったナツの前で、ファンドラッドは戦っているらしかった。しかし、敵は見えなかった。
「ナツ!来るんじゃない!ナツ!!!」
 ファンドラッドは叫んでいた。そして、その左胸から鮮血をほどばしらせながらあおむけに倒れていった。やけに赤い血が鮮明だった。
 ナツは、知らぬまに叫んでいた。
「ウィンディーーーー!」
 
 そこで、目が覚めた。
 
 
 はっと目を覚ましたとき、ナツは資料室の片づけをしていた。いつもの仕事である。どうやら、居眠りをしてしまったらしい。
「あ、あれ・・・。オレ、居眠りなんて・・・。」
ナツは、目をこすった。少しだけ、涙が指先を濡らしていた。掃除の続きをしなければいけなかったのだが、さっきの夢が鮮明に蘇ってきて、なぜか、胸騒ぎがして落ち着かない。ナツは、手に持っていたモップを投げ捨てると、資料室のドアを蹴ってあけた。掃除などする気にもなれなかった。ウィンディーの無事を確かめたかったのである。
 この時間、ファンドラッドは司令室でのんびりと朝の日課をこなしているはずだった。
 しかし、ナツは、廊下を走っている内にいよいよ不安になってきた。廊下を歩いている人間の数があきらかに少なかったのである。なにかあった・・・!そうに違いない!と、ナツの心は不安に押しつぶされそうだった。そんな中での司令室は遠かった。いつもの倍以上の時間がかかったように感じた。
 司令室のドアを開けようとしたとき、ナツは先客の存在に気付いた。そして、その客がすごい剣幕で怒鳴り散らしていることを知ったのである。
 そっとドアをあけ、ナツは中を覗いた。
「ばかな!どうして行かせたんだッ!」
思わず、叱りつけられたときのようにビクッとしてしまった。おそるおそる、もう一度のぞいてみる。怒鳴り散らしている男は、リティーズであった。
「なんで、オレに報告しなかったッ!オレは、副司令だぞ!!」
リティーズの剣幕は凄まじかった。こんな彼をナツは見たことがなかった。怒鳴られているのは、どうやらファンドラッド配下の兵士のようである。
「も、申し訳ありません。閣下が、あなたには報告するなと・・・。」
「何!まさか!!ワザと罠に乗ってやる気かよ!!どこいったんだ!」
「ラシフェの丘です。し、しかし、閣下は心配はいらないと・・・・。」
「なにが、心配だっ!あのライセンをはじめ、去年から今年まで『本国』から送られてきたって言う奴らが、エヴェドーラの回し者だって事を初めにしってたのは、あのウィンディーの野郎だぞ!!」
(ライセン!!)
 ナツは、すんでの所で声に出してしまいそうになった。
(あの優しかったライセンが、まさか、そんな・・・。) 
ライセンとは、リティーズもしたしかった。そのリティーズがいうのだから、おそらく間違いはない。
「あいつら・・・、ファンドラッドの暗殺指令を持っているはずだ。まずい!このままじゃ・・・・!!」
リティーズがそういって、舌打ちしたとき、ドアの向こうで誰かが走っていくような足音が聞こえた。慌てて、リティーズは、廊下を見回した。
「ナツ!」
 オレンジ色の服が遠ざかってゆくのが見えた。
「ナツ!待て!行くんじゃないッ!」
 リティーズの必死の声は、おそらくナツには聞こえなかった。ナツは止まりもしなかった。頭の中が、ファンドラッドやライセンのことで一杯だったに違いない。どちらも、大切な人であるのだ。
 残されたリティはしばらく、呆然としていたが、ようやく我に返っていった。
「聞かれたか・・・。おい!援軍に行くぞ!オレの部隊に出陣命令を下せ!!」
リティは、そう命令を下すと、ナツの走っていった方向を睨み付けていた。もう、賽は投げられたのかも知れないとリティーズは感じていた。
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akihiko wataragi presents
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