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絶望要塞トップへ 7. ナツが目を覚ましたのは、次の日の昼頃であった。 「よお。大丈夫か?ちょっと、やけどしただけだから大丈夫だと思うけどよ。」 心配そうな顔をしたリティーズが、ナツをのぞき込んでいた。ナツは、キョロキョロと周りを見回して起きあがった。 「あれ・・・。オレ・・・。」 「あれほど、じじいが戦場に顔だすなっていってたのに・・・。オレがこなけりゃ、お前死んでたぞ。」 リティーズは恨み言をいうように不機嫌に言った。そういわれて、ナツは、今までのことを思い出した。突然、ナツは、リティーズの襟をつかんだ。 「ウィンディーは!!ウィンディーはどうしたんだよっ!」 リティーズは、突然困ったような顔をした。本当は、いつこの質問をされるかびくびくしていたのである。リティーズは、うつむいて呟くように言った。 「・・・ウィンディーは・・・死んだよ。」 「嘘だ!!」 「う、嘘じゃねえよ。」 リティーズは、困り切っていた。 「だったら、会わせてくれよ!!」 「やめとけ!会ってもわかんねえよ!」 リティーズは、きっぱりと言った。まるで、はねつけるようだった。 「何でだよっ!」 「何でもだっ!半身が吹っ飛んだウィンディーなんか見ても仕方ないだろ!!」 ナツは、突然、うつむいた。 「ホントに・・・もういなくなっちまったのか・・・?」 涙がナツの頬をつたってこぼれ落ちる。リティーズは、痛ましそうな表情でナツをそっとのぞき込んだ。 「ナツ・・・。」 「オレ・・・いいつけを守らなかった・・・。オレが声なんかかけなかったら・・・ウィンディーは死ななかったよな。」 「どうかな・・・そいつは違うよ。」 「何が違うんだよ!!」 ナツは、怒ったように顔を上げた。それをなだめるように副司令官は優しく言った。 「出ちまったもんは仕方ないし、声をかけられた位で振り向くようなウィンディーがバカだったんだよ。あいつらしくもない大きなミスだよ。それに、お前が声をかけなくったって勝負は決まってたよ。あいつは、その・・・右手が使えなかったんだから。」 ナツは、再びうつむいた。彼の涙がとめどなく流れるのを、リティーズは、静かに見つめていた。 ナツは、ふさぎ込んだ気持ちのまま、要塞内をうろうろしていた。本当に、ウィンディーは死んだのだろうか・・・。本当は、死体を見るまでは信じられない。ふと、向こうから女性が歩いてくるのがわかる。女性兵士の誰かだろうと思って、さして気にも留めず、見ようともしなかった。だが、相手の方は違ったようである。 「ナツ・・・。」 相手の声も元気がなかった。だが、その声に聞き覚えがある。 「ライセン・・・!!」 ナツは複雑な心境だった。この女が、刺客ではなかったら・・・ウィンディーは死ななかったのである。なのに、ライセンがどうしてまだ要塞にいるのかわからなかった。捕虜でもないようだ。しかし、それでもライセンは、好きだったのである。 「な、何しにきたんだよッ!」 「あたし・・・。ごめんなさい。ナツ・・・。」 ライセンは、うっすらと涙を浮かべていた。 「どうして・・・ここにまだ・・・いるんだよ・・・。」 彼女は、困ったように床を見つめながら呟くように言った。 「あ、あたし・・・、閣下に助けてもらったんだ。」 「ウィンディーに・・?」 ナツは、敵意を解いた。 「ああ。国は・・・用無しになった途端、あたしを殺すつもりだったんだよ。その時、閣下が助けてくれて・・・。」 ライセンの声は詰まった。 「ご、ごめんな!あたしのせいなんだよ!本当は・・・!あんたのせいなんじゃないんだ!」 気丈なライセンが大泣きするのをナツは初めてみた。なぜか気の毒になって、ナツはなぐさめるように言った。 「いいよ。ウィンディーがそうしたかっただけなんだよ。きっと。」 そう言ったナツは、ふと妙なものをみた。立入禁止区域、建物の老朽化により、危険だとされている所にリティーズが足を忍ばせて入っていくのである。 「ライセン・・・。アレ・・・。」 「え?」 ナツは、声を潜め、ライセンの上着をつかんだ。ライセンも、涙をぬぐってあわててそちらを注意深く見つめる。 「あれ・・・?リティじゃない・・・。」 「そうだよ。立入禁止区域に入るなんて・・・。後をつけよう。」 「え?でも。」 ナツの誘いにライセンは難色を示した。もしかしたら、ファンドラッドの遺体を安置しているのかも知れない。それをナツに見せて良いものか・・・。 「ほら!ライセン行こうぜ!」 「あ・・おい!」 ナツは、すぐに行動を起こした。仕方なく、ライセンはついていくことにした。そっと足を忍ばせて歩いてゆく。しばらくすると、それまでは、しろい石壁が黒く変色した石壁にかわっていった。 「昔・・・この要塞が陥落したって聞いた。」 小声でナツは言った。 「もしかして・・・これがその痕・・・。」 ざらっとしてすぐに崩れやすい石壁は、年月の古さも感じさせる。二人は、物陰に隠れながらそっと後を付けていった。 やがて、リティーズは、分厚い金属の扉の前で立ち止まって、その扉をノックした。返事が一切返ってこない。 「おい!こら!てめえ!怪我人だと思って甘く見てると調子のんなよ!」 少したって、またリティーズの声が聞こえた。部屋の中の声は全く聞こえない。 「うるせえなっ!あんたじゃなきゃ、わかんねえんだよ!オレはあんたみたいに、えげつなーい策略を練り出すようなシステムはねえんだよ!畜生!」 二人は、顔を見合わせた。一体・・・リティーズは、誰としゃべっているんだろう。 「リティーズ!!」 ナツがパッと飛び出した。リティーズは、さっと青くなり、傍目には滑稽なほど慌てる。「な、な、何のようだよ。こ、ここは立入禁止なんだぞ。危険だから、どっかいけよっ!あ!ライセンまで来やがって!!」 「オレになにか隠してるよな!!」 ナツに詰め寄られて、リティーズは焦った。 「な、何を隠してるって!!」 「どうして、ウィンディーに会わせてくれないんだよ!どんな姿でも良いから、一回確かめさせてくれよ!!」 ナツは、真剣だった。リティーズは余計困っていて、目が泳いでしまっている。明らかに動揺しているのだ。 「あたしからも、頼むよ・・・!ナツに会わせてやってくれよ!リティーズ!」 今度は、ライセンだった。リティーズは曖昧に応える。 「あ、あのな。ウィンディーなんて、とっくに・・その埋葬したって言うか・・・。」 「じゃ、そこに案内しろよ!!」 「案内しろって・・・そんなオレが怒られ・・いや、罰当たり・・・だし・・。」 リティーズは嘘をつくのが極端に下手な男である。もう限界まで来ていた。 ところが、突然、扉が勢い良く開けられたのである。そして、聞き覚えのある声が聞こえた。 「何をやってるんだ。騒がしいぞ、クレイモア!だから、静かにしないとここには呼ばないって言って・・・。」 相手は、そこまでいって絶句した。だが、言葉を失ったのは彼だけではなかった。ナツとライセンも同時に声を失ったのである。 そこにいた人物は、しろい髪に青い片眼鏡・・・、鋭い瞳をした男・・・。つまり、死んだ筈のファンドラッド将軍そのひとだったのである。のんきにうちわで自分をあおぎながら出てきた彼もぎょっとして固まっていた。 「しまったー!!」 ファンドラッドも相当慌てたようだった。あわただしく扉を閉ざし、彼はそこに隠れてしまった。 「ウ・・・ウィンディー!!!」 「ち、違う!私は断じてウィンディーなどではなーい!はっきり言って、私は死んでるし!!だ、だ、だいったい!こんな所にいるわけがないだろうが!!だ、だということで私は、その、幽霊のような者だ。化けて出ただけで、特に気に留めるなーっ!!」 支離滅裂のいいわけ・・・。ファンドラッドは、今まで言ったこともないようなとんでもない弁解を口にしていた。よほど慌てていたのだろう。 「ウィンディー・・・・。」 力無く、リティーズが言った。 「もう諦めろ・・・。ばれちまったんだからさ。」 戻る 次へ 絶望要塞トップへ |
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