絶望要塞・幻想の冒険者達
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 9.
「私達は、要塞を再び手に入れた。まあ、結構ひどい戦いだったけどね。初戦は、あんなもんかな。それから、徐々に同型の戦闘ロボットをつくったんだ。作り方は、製造機械がおぼえていたからね。」
 昔話を終えて、ファンドラッドは懐かしそうに、左手で右目の傷に触れた。
「この傷はその時についたものだ。」
「あんときは、無茶したもんな。ライアンなんか、首が吹っ飛びかけたんだからよ。まあ、オレも五体満足じゃなかったけどね。片足がつぶれちゃってよ。青かったよなあ。」
けけけっと楽しそうにリティーズが笑う。ナツとライセンは、目をまんまるにして彼らを見ていた。
「だっ、だけど・・・。」
 ナツは、ファンドラッドを食い入るように見つめながら言った。
「だけど、機械なら、修復がきいたんだよな・・・。どうして、右目を治さなかったの?それは、失明してるんだよな?」
 それを聞いた途端、ファンドラッドとリティーズの二人が大声で笑い出した。
「ナツ。今まで、こいつが見えてないと思ってたのか?」
「え?」
「悪い悪い。実は、見えてるんだよ。ナツ。」
ファンドラッドは苦笑した。
「だけど・・・。」
「そうだ。確かに失明してるんだが。」
といいながら、彼は片眼鏡を外した。右の瞳は、光を映していないし、少し濁っているように見えた。
「この眼鏡で視力だけを戻しているんだよ。望遠機能もついていて使いやすいから重宝してるんだがな。」
「これ・・・?こんなんだけで・・・?でも、全部直したほうがいいじゃないか?そんな面倒な事しなくてもいいんだぜ?」
ナツが、不思議そうな顔で尋ねると、ファンドラッドは先生のように穏やかに話しかけた。
「ナツ・・・。」
「うん。」
「何もかも、直さない方がいいこともある。これが、私がファンドラッド将軍の複製じゃ無いという証拠だしね。自分が誰かの複製だなんてこれ以上哀しいことはない。それが、どんなに優れた人間でも、私は一人だけの「わたし」でいたいとのぞんでいる。わかるかな?つまり、どんなに不便でもこれは、私の個性なんだよ。ファンドラッド将軍にはこれはなかったからね。」
ファンドラッドは、そういうとナツを申し訳なさそうに見つめていった。
「悪かったな。ナツ。今まで、隠していて。私の正体を知れば、お前は・・・。」
「いいよ。別になんだって、ウィンディーはウィンディーだし、リティはリティだもんな。カンケーないよ。そんなこと・・・。」
ナツは、ようやく笑いを浮かべた。だが、その瞳には涙が溢れそうになっていた。今まで、抑えてきた気持ちが爆発しそうになっていた。
「だっって、あんたが・・・生きてくれてて・・・オレ・・・。」
そこで詰まった。ファンドラッドの口から笑いが消える。
「ウィンディー!!」
 ナツは、ファンドラッドに抱き付いた。
「オレ・・・だって、オレのせいでウィンディーが死んじまったって・・・思ってたし・・オレ・・・。」
ナツが泣いているのは、声を聞いてよくわかった。ファンドラッドは、一瞬、驚いたような顔をしたが、優しく微笑んだ。
「わかってるよ。大丈夫だ。私はちょっとやそっとじゃ、壊れない。あんまり、心配されないほうが気楽で良いよ。」
ファンドラッドは、そう言いながら、自分も涙声になりそうになっていた。
 
 夜、バルコニーから、ファンドラッドは星を眺めていた。星の光は微細で弱々しい。だが、そこに確実に光っている。綺麗な空だと、ファンドラッドは素朴な感想を持った。 
「よっ!」
軽い声が聞こえ、リティーズがやってきた。そして、けらけら笑いながらファンドラッドにこういった。
「いやはや、あんたもあれだよなあ。やっぱり、女と子供には甘いんでやんの。」
からかうような口調だった。ファンドラッドはむすっとして
「給料差し引くぞ。」
「ちっ!ナツと会わないって決めたときは、あんなに落ち込んでたのによ。解決したら、もうそれかよ。かわいくねえ。そろそろ年金生活できるような歳だろ?もっと可愛い性格になったらどうなんでえ?」
リティーズは、不満そうに言ったが、彼は動じない。
「残念でした。見た目は違えど、私とお前は同い年だ。私が年金生活なら、貴様も同時に年金だ。こうみえても、精神は若い。」
「くそっ!よく考えりゃそうか!!」
リティーズは悔しそうに吐き捨てる。クックッと笑って、ファンドラッドの方が訊いた。
「ところで、ライセンのことは公表しなかったんだろう?」
「できるわけねえだろ。あいつだって、騙されてたんだし。」
「私も同意見だ。ま、公表してたら、君を湖の底に沈めてたろうがね。」
ニヤニヤしながら、ファンドラッドは、軽くジョークを言った。だが、彼のそんなブラックな冗談を笑える者はいない。やりかねないからだ。
「やめろよ。そんなこというの。鳥肌が立つだろ?」
 リティは、ふうとため息をついてから、少し笑っていった。
「ライセン。しばらく、要塞にいるって。故郷にも帰れないし、あんたに恩義を感じちゃったみたいだし。」
「一番、喜んでるのはお前じゃないのか?喧嘩相手がいなきゃ、つまらんだろ?」
「バカいってんじゃねえよ。」
リティーズは、チッと舌打ちをした。
「そうかい。ま、勝手におし。」
ファンドラッドは、意味深に微笑み、不機嫌で少し赤面しているかも知れない相棒につぶやいた。
 少したって、ふと気がついたようにリティーズは言った。
「だけど、ナツは、どうするんだ?やっぱり、戦場についてくんのかな?」
「さぁな。」
「さぁ・・・って・・。」
「正直わからないと言ってたよ。」
ファンドラッドはため息と共に応え、ナツの言葉を思い出した。
『オレ、みんなの役に立ちたいけど、今度、戦場に出て、ふるえてしまうぐらい恐かった。それに、わからなくなったんだ。オレは、本当に敵と戦いたいのかな。本当は戦いたくないのかな。臆病者かも知れないけれど・・・でもオレは・・・。ライセンみたいに、とってもいい人を殺さなくちゃいけないかも知れない。もしそうだとしたら、オレは、戦えるのかな?』
 ファンドラッドは、やれやれと呟いた。
「本人に任せるさ。無理強いはしない。」
「そうか。時間はあるよ。その内に戦争が終わるかも知れないし。」
「そうだな。」
ファンドラッドは、苦笑してひとことつぶやいた。
「人間の子供というのは、知らぬ間に勝手に育つもんなんだな。」

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akihiko wataragi presents
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