魔都東京。大志を抱いて上京した若者達に、摩天楼は魅惑的に、しかし圧倒的に見下ろしている。
　そんな場所で貧乏生活を送る学生のお話……

でているひと

陸　春人（りくはるひと）
学生。趣味は貯金。ベンチャー企業起業をたくらむ。
部屋が狭いのが悩みの種。バイト中は、コンビニで偽笑顔をふりまいている苦学生。
ペットボトルに一円玉貯金が近頃の生き甲斐。倹約は美徳らしい。

ファルケン
どこかの国からの留学生。日本語はしゃべれるが、ごくまれに恐ろしくなまる。
賭けマージャンをやらせると、理性がキレイに飛ぶらしい。バイトは土方に限る。
ビールの王冠コレクター。

ファミコン編

　ある日、いつものように　りくが　よじょうはんの　げしゅくにかえると　たたみのだいぶぶんを　せんりょうしている　あいぼうのおおおとこが、ひたすら　テレビがめんに　みいっていた。
　そもそも　りくの　家には　てれびなどという　ぶんめいてきなものが　あろうはずもないのである。けげんに　おもった　りくは　さっそく　かれに　たずねることにしてみた。

「おい、ファルケン。これどうなってんだ」
「オレ、マリオやってて忙しいから」
「忙しいじゃねえだろが。テレビなんてどっから拾ってきたんだよ」
「壊れてたの拾ってきて直した。コレでこの前ひろってきたファミコンができるよ、レック！」
「ファミコンまで直したのかよ。お前はそういう修理とかには、局地的に天才的な才能があるよな」
「えへへ〜エコ精神の権化だから！」
「えこねえ・・・　せけんは　でぃーえすとかいってるのに　よりによって　ふぁみりーこんぴゅーたーかよ　しかも　あかとしろのやつ」
「そんなこと　いって　りくも　けっきょく　やりたいんじゃないか。だいたい　でんきだいは　おれが　はんぶんいじょう　はらってるんだから　べつに　やっててもかまわないだろ」
「ええい、まどろっこしい！　ちゃんと漢字つかって喋れ！」
「８ビットの性能に合わせただけなのに……」
「にしても、お前、そのコントローラー小さくないか。妙に似合ってるのが気にかかるがな」
「大丈夫！　オレ器用だから！」
「……ああ、そ〜ですか〜」
「あ！」
「あ？」
「陸が横で何かいうから全滅した！」
「オレのせいにするなよ。お前が不用意にＢダッシュするからだろ」
「そんなこといわれても、ついついしたくなるのが人間の情っていうか〜」
「へたくそ。代われ」
「あれ、陸は、やったことあるのか？」
「ふふふ、友達の家に居座ってやったぜ、オレは……」
「自分のソフトは？」
「友達の家で悟れよ！　うるせえな、人間触れられたくね〜過去ってのがあるんだ！　よっしゃ！　ここで、次世代の高○名人と呼ばれたオレ様の才能を見せ付けてやるぜ！　オレは伝説の１６連射を会得しているのだ！　その間、お前、賞味期限が一日切れてもらってきたカップラーメンつくってろ！」
「……またカップラーメンか？　しかも、賞味期限切れ……」
「お前、ここにガス台が存在しないのはどういう理由かわかるだろ」
「あ、そうでした。……ここで押入れにサルマタが詰まっていたら某漫画みたいだな。ジュリーがいないのが残念」
「それ、今の若い子には通じないぞ。というか、なんでそんなことをお前が知ってる……。しかもよりマニアニックな方だろ、その話」
「そうそう。そっちのほう。美人とヤクザのジュリーが住んでるんだよ。うちにはいないのでちょっと寂しい」
「うーん、確かに、占い師と霊感強いあの二人が住んでたらちょうどいいかもな。しかし、たまには飯が食いたい気もするなあ。そろそろラーメンは飽きた。ヨーグルトかかった羊肉が食べたい」
「ヨーグルトかかると妙な味になるよ。それと、炊飯器は、陸が質屋にもっていったんだよ。布団も質屋なのに。この何も無さは本当に某漫画みたいだ」
「う、うるせえなあ！　金だ！　金が要るんだ！　学費を払うためなら、オレは即鬼になる！　そして、日々溜めている金で将来ベンチャー企業を立ち上げて、オレは時代の寵児とよばれる男になるんだ！」
「あのさあ、今、時代の寵児とか呼ばれると、後で捕まりそうだよ……。せめて、身のためにも人並みの暮らしとかにしておいたほうがいいんじゃないかな？」
「横でがたがたいうな！　お前には男のロマンがわかってない！」
「……！」
「どうした？」
「陸の口から男のロマン？　お、おとこのろまん？」
「なんだ！　オレが語っちゃいけねえのか！」
「……いや、お金儲けも男のロマンがあるんだなあと思って……」
「て、てめー！　日本語わかってねえだろうとおもって、優しくしてればつけあがりやがってっ！」
「あ！　ノコノコが迫ってるよ！　ノコノコが！」

　ふぁみこんの　おとが　ぴこぴこと　ひびくなか、くがくせいの　りくと　どこのくにのしゅっしんかが　いまだに　つかめない　なぞの　りゅうがくせい　ふぁるけん　の
せいかつは　あいかわらず　こんきゅうを　きわめているのであった。

「だーっ　かんじ　つかえ！　まどろっこしい！」
「・・・じぶんも　えいきょう　ばっちり　うけてるくせに」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ファミコン編おしまい

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