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進む 一覧 〈 第一章 波乱多き旅立ち 〉
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一、アルザスとライーザ 山あいの小さな港町には何の派手なものもなかった。 青い澄み切った空とふわりと軽そうに浮いている綿菓子状の雲・・・。 深い青い海が太陽の光を反射して煌めいており、 水平線は遠い場所で海と空の境をつけている。 丘の上の赤い屋根の家から見ると、 そんなのどかな風景と古い寂れた町並みが平和そうに広がっていた。 その古びた赤い屋根の家はこの町一番の有名人の家である。 世界的な冒険家であるフランツにディアスといえば大概の人々が目を輝かせるほどに高名だった。 この二代にわたって大冒険家を排出した家がこのヴェーネンスという地味な町にあることはあまり知られていないらしい。また彼らに三代目を継ごうという少年がいるということもあまり知られていないことだった。 今赤い屋根の上で昼寝でもするように寝転がっているのが、その三代目のアルザスという十六の少年だ。 焦げ茶色のばさばさした髪の毛をぐしゃっとやると、アルザスは身を起こした。 どんぐりまなこがゲジゲジ眉の下で光っている。 お世辞にも美少年とはいえないが、威勢の良さそうな生意気小僧といった風だ。 日焼けした肌に額には赤いはちまき。同じ赤いジャケットを腕まくりしていて、がさつな感じがにじみ出るようだ。手首に赤いリストバンドをはめ、ちょっとやそっとでは破れないような厚手のごついズボンと割れたガラスを踏んでも大丈夫そうなかなり丈夫にできたブーツを履きこんでいる。 仕草もかなりぶっきらぼうだ。だが、その目には情熱めいた光が燃えており、やはり血は争えないものなのだと感じさせるものがある。 フランツにしろディアスにしろ危険で謎めいた無人島を発見、探検したことが主な功績だったが、彼らはそんなことよりもどちらかというと、もっと伝説的なことを探求する方が好きだった。 これは信じてもらえないから言わなかったが、二人とも怪物めいた敵ともであったことがあるという。 そのほか伝説上の神殿跡や宮殿を発見したりしてるようだったが、決して周りにそのことを漏らすことはなかった。アルザスはそれを知っていたし、そんなふつうには体験できなさそうな不思議な冒険をしてみたいと常々思っていた。それが世間に発表できるものではなかったとしても・・・。 とにかくそんな風なものだから、アルザスは二人のように世間で名前を挙げなければいけないと言うプレッシャーをあまり持たずに育った。それはもちろん二人が名前にこだわらないタイプだったからでもある。 そういうわけでちょっとがさつだが天真爛漫な少年になってしまったというわけだ。 今この家にはアルザスしかいない。二組とも夫婦でそれぞれ冒険と称して旅行に行ってしまったからだ。アルザスはまだ冒険というものに出たことがなかったのだが、今回すでに予定が決まっていた。しかし、その目的があまりにも平凡すぎて乗り気ではなかったため、ここでまだごろごろしているのだった。 「アルザス!」 少女の声が下の方でした。 アルザスが屋根の下をのぞいてみると、そこに金髪で青い瞳の少女が腰に手を置いてたっていた。 長い金髪をポニーテールにまとめ上げ、リボンをつけて、つり上がった眉に気の強そうな青い瞳が太陽の光を受けて輝いていた。なかなかにかわいい少女である。一般的にいう美少女であったが、可憐ではなく、パワフルな覇気がある。上下ピンクのスーツを着て、首にはスカーフを船の船長のように巻いていた。そこに青い宝玉のついたブローチが輝いている。ブーツも丈夫なもので、スカートの下にはズボンをはき込んでいた。いつも見慣れた幼なじみのライーザという少女だ。 「なんだ?」 アルザスが間の抜けた声で返す。 「『何だ?』じゃないわよ。ねっ。ちょっと降りてきてよ!」 ライーザがせかすので、アルザスは仕方なく面倒そうに屋根から飛び降りた。 「いい?これは一大事なのよ」 やけに間をもたせてライーザがいった。 「だからなんだって?」 「港に船が来てるの。しかも大きな船よ」 アルザスは面白くなさそうにつぶやいた。 「そんなの港だから当然じゃねえかよ」 「馬鹿ね。乗ってる人間が問題なの!とんでもなく人相の悪い奴らばっかりなの」 「まさか・・・海賊か?」 アルザスが気色ばむ。それをライーザは馬鹿にしたように見回して、 「全く本当、あんたってバカね。海賊だったらまず襲撃してくるのが普通じゃない。ヤツら普通に港に入ってきた上、例の幽霊屋敷のことを聞きまわってんのよ」 「何!」 アルザスは身を乗り出した。 「あの幽霊屋敷をか?」 「そうよ。あのぼろぼろ屋敷を。いろいろ町の人から聞いてたけど・・」 「船は?どんなのだ?」 「あんた。屋根の上で干物みたいに寝転がってたくせに見てないの?」 「よし」 アルザスは一気に屋根に飛び上がり、一番高いところに陣取ってさっと懐から望遠鏡を取り出した。確かに沖に船が泊まっている。帆船のようだが多分エンジンは搭載してるはずだ。大きすぎて港に入れないので沖に泊まっているのだろう。畳んだ帆がやけにかっこよく見える。 望遠鏡をのぞいていたアルザスが、おおっと声を上げる。 「なんだあれ。やばそうな船だな。船首像なんてウミヘビが絡まってる女の像と来てるぜ!」 「だから言ってるんじゃない」 ライーザが物わかりが悪いのよ。と付け加える。 「こうしちゃいられねえぜっ!」 アルザスは屋根裏部屋の窓を開けて、家の中にするりと入っていった。しばらくすると、ランタンやテントの入ったリュックをかついでまた屋根に戻ってきた。そもそもこのリュックは一ヶ月も前からきたるべき日のために用意していたものであった。少々ほこりを被っている。 「ようし!行くぜライーザ!」 「カッコつけてないで早く来なさいってば!」 「おう」 アルザスは今度はひらりと軽やかに屋根から飛び降りた。腰のベルトの後ろには短剣が引っ掛けられている。 ライーザはにこりと笑った。 「あんたならそうくると思ったわよ。さあすが私の幼なじみ。怖いもの知らずさは天下一 品ね」 「褒めてるのか?それ」 「最上級の褒め言葉に決まってるじゃない。ところでこの一件何か裏があると思わない?」 アルザスはもっともらしい表情で自信たっぷりにやりと笑った。 「ああ。絶対にあるさ。オレの勘は良く当たるんだから」 「確かに勘は良く当たるわよね。冒険者の勘ってやつ?」 「そうかもな。じゃ行くぞ」 ライーザの話なんて上の空にアルザスは荷物をしょって駆けだした。 「あっ、待ってよ!レディーをおいてく気?全く。デリカシーがないんだからっ!」 この際誰がレディーかは追求しないでおくが、とにかく二人は一気に丘を下り、港まで走っていったのだった。 素材:トリスの市場様 |
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